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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2022年
182/201

9月16日  末森琴良

 俺にははる紫苑しおんという従弟がいる。二人は六年前の百鬼夜行で亡くなったことにされているが、俺がそれを信じたことは一度もなかった。


「会わなくていい。末森すえもり、あの二人はやはり陰陽師おんみょうじの裏切り者だ。今しがた百妖ひゃくおう家周辺に落ちていた物品の鑑定結果が出て、春とDNAが一致した。お前が接触を図ると仲間だと思われるぞ」


 俺にそれを教えてくれたのは、幼馴染みの本庄ほんじょうだった。

 本庄は俺のことを心配してくれているみたいだけど、二人の親が陰陽師の裏切り者同然だったから、二人も陰陽師を裏切ったとしても俺だけは二人の味方でいてあげたかった。


 六年前のあの日、俺は死にかけていた結希ゆうきの傍にずっといたから──今だけは二人の傍にいてあげたかった。


 瞬間にようやく目の前に現れたのが春と紫苑だった。生きているとわかっていたから六年もその姿を追い続けてきたが、その姿を見たことは一度もなくて──だから涙が溢れてくる。


「……会いたかった」


「俺たちは会いたくなかったよ」


 そう言われても俺の喜びが消えるわけではなかった。瞬間、抜刀した紫苑が俺に飛びかかってくる。だから俺は目を閉じた。それで罪を償えるならば、罪を償いたいと思ったから。



「〝琴良ことら〟!」



 そんな俺を守ってくれたのが本庄だった。


「来るな!」


 結希が春へと近づこうとすると、春が吠える。


「やっぱり俺、あんたが本当に大嫌いだ……!」


 俺も、春に嫌われても仕方のないことをした。


「お前も、琴良もっ、殺してやるよ!」


 紫苑が俺を殺そうとした気持ちも、春が俺を殺そうとした気持ちも、わかる。だから。


「春! 紫苑!」


 大切な二人の名前を大声で叫んだ。



「俺は、二人の仲間にはなれない。けど──望みを叶える味方にはなれるよ」



 本庄。ごめん。こんな俺の幼馴染みになってくれてありがとう。


 襟ぐりから刀を取り出して、抜刀し、本物の刃を自らの腹に当てて斬る。そこに躊躇いは微塵もなかった。

 俺は陰陽師を裏切れるけれど、《カラス隊》は裏切れない。二人の味方になってあげたいけれど、二人から拒まれる。


「末森ッ!」


 そんな俺がとれる行動はこれしかないんだ。これで何かが解決するわけでもないと思うけど、何もしないよりかはマシだろう。


 せめて、春と紫苑には俺が口だけの従兄ではないのだとわかっていてほしかった。


 二人が亡くなったことにされた世界で生きてきた俺だから、最期に二人にまた会うことができて良かった。俺にとって、俺の死はとても些細なことだった。

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