9月11日 首御千貴美
「何故ですか母様ッ!」
《十八名家》の集会後に首御千家で行われたのは、首御千家の定例会議だった。内容は、先ほど青葉が《十八名家》の本部で聞かされたと言う《十八名家》現頭首の世代交代について。
伯母様は、首御千家の中でその話を誰よりも先に聞いていて同意までした。そんな伯母様を青葉が怒鳴ったのは初めてだった。
「俺は絶対に首御千家の頭首にはなりません! お断りします!」
私も、そして他の一族の人間も現頭首である伯母様と彼女の実子である青葉の争いを止めることができない。そして、止める必要がないとも思っていた。
だって、伯母様は現頭首だから。首御千家の〝絶対〟だから。青葉がどれほど拒んでも、拒めないから。
伯母様は青葉を冷めた視線で眺めていた。駄々を捏ねる子供を眺めているような視線でさえないそれは、青葉の人間としての意思を否定している。
ただ、首御千家に産まれた轆轤首の半妖である伯母様こそが私たちの中で最も人権のない人間であることを青葉を含めた全員が知っている。そんな伯母様が現頭首としてこの家を支え、守る姿を見ていたから──誰も伯母様に逆らう気も抗えない運命に戦う気も起きなかった。
なのに、青葉は違う。伯母様の実子で、伯母様を継ぐ真の次期頭首──次世代の轆轤首の半妖である朱亜の実兄だからか、伯母様に無謀な戦いを挑む。
大広間に飾られている家宝の日本刀を抜刀した彼は、そのまま伯母様へと突っ込んでいった。だが、伯母様が何もない空間から取り出した刀で右肩を強く殴られてしまった。
「青葉ッ!」
思わず声を上げる。彼の青い着物がはだけ、真っ赤に染まった肩が露わになった。
「青葉が現頭首です」
伯母様がようやく口を開く。青葉の怒りと比べると、あまりにも感情の篭っていない声で。
「俺は、朱亜を……現頭首に相応しいのは俺ではなく朱亜です!」
「それは、貴方が現頭首を拒む理由にはなりません」
そう言われてしまったら、青葉に返す言葉はない。肩を剥き出しにしたまま、怒りの表情で大広間を後にする青葉を視線で追いかける。
「貴美」
「っ、はい」
声をかけられるとは思っていなくて身構えた。私は青葉の従姉であって育ての親ではないのに──
「青葉のこと、よろしくお願いしますよ」
──それを、青葉本人に言えばいいのに。青葉が置いていった刀をしまって、大広間を後にする伯母様はきっと、青葉にも朱亜にも自分の心の声を告げない。私だけが知っていることだった。