9月11日 泡魚飛和穂
叔父様に言われて三ヶ月ほど引きこもっていた家から訪れたのは、高級住宅街にある《十八名家》の本部だった。
何か特別なことでもない限り現頭首の叔父様でも訪れないこの場所に、私は何故呼ばれたのだろう。最初から嫌な予感しかしなかったが、宴会場に入った瞬間に少しだけほっとした。
呼ばれた《十八名家》の人間は、私だけではなかったのだ。
雪之原家からは現頭首の白雪さん。
炎竜神家からは同じく現頭首の密さん。
骸路成家からは同じく現頭首の麗夜。
泡魚飛家からは私。
綿之瀬家からは風さん。
妖目家からは明彦さん。
首御千家からは青葉さん。
猫鷺家からは叶渚さん。
相豆院家からは現頭首の鬼一郎さん。
鬼寺桜家からは虎丸さん。
小白鳥家からは冬乃さん。
芽童神家からは八千代。
結城家からは涙さん。
鴉貴家からは蒼生さん。
白院家からはヒナギク。
阿狐家は亜紅里。
小倉家からは雷雲さん。
百妖家からは誰も来ていなかった。
私たちの前に立ったのは万緑さんで、巨大な円卓にそれぞれ腰をかけていた私たちも立ち上がる。何を言われても驚かないと思っていたのに──
「今年の十月一日に、《十八名家》の多くの現頭首の世代交代を行います」
──告げられた言葉は、簡単に私を蝕んだ。
陽陰町には妖怪がいる。私たちには妖怪の血が流れていて、百鬼夜行が起きたら町と人の為に身を呈して守らなければならなくて、人魚の半妖の母様は百鬼夜行で亡くなった。私はそれを三ヶ月前の二十歳の誕生日で知らされたから、まだ受け入れることができていなかった。
それは、とっくのとうに二十歳になっていた叔父様もそうだった。
母様が亡くなってから現頭首になった叔父様も私と同じで半妖ではない。現頭首になったその日から叔父様は段々と窶れていって、叔父様の息子で従兄の奏雨は肥えていって、それを醜いと蔑んだ時期はあったけれど──今ならばその理由が吐き気がするくらいにわかってしまう。私も叔父様みたいに窶れている自覚はあった。
嫌だ。なりたくない。死にたくない。
ただ、周りにはそれを受け入れている──私と同じでずっと次期頭首候補と呼ばれていた人たちもいた。
その人たちはどういう神経をしているのだろう。その強さに憧れる方がいいのか理解不能と切り捨てたままの方がいいのか。
覚悟をする時間があったからと言われたら本当に羨ましいと思う。どうして私が二十歳になった年に裏切り者が出てきたのだろうと土地神を恨むことしかできなかった。