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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2022年
177/201

7月17日  小倉陽縁

 小倉おぐら家は《十八名家じゅうはちめいか》の中でも珍しい半妖はんようが産まれる家ではないから、男の人でも誰かの代理ではない現頭首になることができる。

 子供も半妖の力を受け継がなければならない家と比べたらそれほど強く望まれてはいなかったけれど──《十八名家》の家に産まれたら幸せになることは難しいかもしれないけれど、それでも私は子供が欲しかった。


 男の子でも、女の子でもいい。そう思っていた。


 《十八名家》の人間なのに心から好きだと思えた輝久てるひささんと結ばれることができたから、その時点でそれ以上を望むことは贅沢だったのだろうか。

 十年くらい続けていたけれど、私は子供を授かることができなかった。私が子供を授かりにくい体だった。それでも諦めたくなかったのは、どこにでもいる普通の家族に憧れていたから。《十八名家》とは無縁の暮らしをしていた輝久さんに、輝久さんや輝久さんの親御さんが夢見ていたであろう家庭を得て欲しかったから。


 他の家と比べるとあまり《十八名家》らしくない小倉家とはいえ、《十八名家》で子供も授かれない私と結婚して輝久さんは幸せなのだろうか。


 それを考えている間はいつも涙が出てくる。けれど、今日は違う理由で涙が出てきた。


「おめでとう」


 真顔でそう告げてくれたのは、妖目おうま総合病院の院長のそうさんだった。

 どんな症状でもどんな用件でも《十八名家》の人間ならば必ず診てくれる双さんは、「貴方でも泣くほど喜ぶのね」と言葉を漏らす。


「そっ、そ……だって!」


 双さんは私の気持ちがわからないのだろう。双さんは半妖とその兄弟姉妹を産まなければならなかった人間だから。産まないという選択肢はなかったから、半妖やその兄弟姉妹を産む必要も産まないという選択肢も産めないという事実も持っていた私の気持ちを、百目の能力である千里眼を以ってしてもわかってはくれないだろう。


「赤ちゃん、ここにいるんですね……?」


 そっと自分のお腹に手を当てる。正真正銘、大好きな輝久さんの血と小倉家の人間の血も継いでいる小倉家唯一の次世代の子が──ここにいる。


「えぇ。性別はまだわからないけれど」


 男の子でもいい。女の子でもいい。

 男の子だったら風丸かぜまるくんがいいお兄ちゃんになってくれるだろう。女の子だったら双さんの娘さんで小倉家の神社でバイトをしてくれている明日菜あすなさんがいいお姉ちゃんになってくれるかもしれない。後はただ、土地神様に──そして結希ゆうきさんに祈る。


 この町が平和でありますようにと。

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