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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2022年
173/201

5月8日   白院・N・ヒナギク

 我々白院はくいん家の人間が運営している陽陰おういん学園の結界が破られた。それは間宮結希まみやゆうきという陰陽師おんみょうじのクラスメイトが張り直したらしいが、根本的な解決にはなっていない。


 誰が何故陽陰学園の結界を破ったのか。


 間宮結希が陽陰学園の結界を張り直した際に狐の半妖はんようが邪魔をしてきたらしいが、半妖には結界を破る術がない。陰陽師の協力者がいるはずだ。


 陰陽師が何故陽陰学園の結界を破ったのか。


 一人で考えても答えは出なかった。だが、私はずっと一人だ。今は──まだ。一人だ。


「ヒナギク様」


 一人で晩御飯を食べていると、一族の人間が声をかけてきた。珍しい、陽陰学園の結界破りについて何かわかったのだろうか。


「本日は、万緑ばんりょく様がいらっしゃるそうです」


「え」


 思わず立ち上がってしまう。母様と一緒に晩御飯を食べることなんて滅多にない。一緒に食べることができる日が特別な日というわけでもないから、いつも突然で戸惑ってしまう。

 それを表に出すことはできない。私は母様から半妖の総大将という立場と白院家の現頭首の立場を継ぐのだから──。


「ヒナギク」


 姿を現したのは母様だ。家にはいるが滅多に会うこともない母様が大広間にいる。


「お、お久しぶりです」


 頭を下げた。どういう態度で母様と接すればいいのかさえわからないから、上げることができなかった。


「顔を上げなさい」


 そう言われてようやく母様の顔を改めて見ることができる。私に似ている母様の顔──いや、私が母様の顔に似ているのだろう。微動だにしない母様は、私に用があるからここに来ているようだった。



「──お誕生日、おめでとう」



 それが用だとは思わなかった。


「え……」


 お誕生日? 誰の? 私の?


「忘れていたの?」


 母様が少しだけ声色を低くした。


「あっ、いえ! その! いいえ!」


 悲しませることも、怒らせることもしたくなくて、嘘を吐く。母様に嘘を吐いたのは今日が初めてだった。誕生日に嘘を吐きたくなかった。


「ヒナギク、貴方は私がお腹を痛めて産んだ子よ」


 その言葉は重い。私もいつか、母様のように我が子を産まなければならないから他人事ではない。


「貴方は今日で十七歳。今度発表する生徒会役員の生徒会長には、貴方を指名するわ」


「……はい」


「今年は貴方にとって大切な年になるでしょう。気を引き締めるように」


「……わかっています」


 生徒会長として生徒会役員を率いるから、私はあと少しで一人ではなくなる。それが良いことなのか悪いことなのかはわからなかった。

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