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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2022年
172/201

4月8日   阿狐亜紅里

 私はこの世界を滅ぼす為に生まれてきたらしい。それだけが生まれてきた意味ならば、私はこの世界を滅ぼそうとは思わなかった。

 世界がどれほど広いのかは知らないけれど、世界を滅ぼすことは私をこの世界に産み落とした女が思うほどに簡単なことではないと思うから。だから、殺された方がマシだと思っていた。


 けれど、私にはママというもう一度だけ会いたい大切な妖怪がいる。彼女に会う為ならば私はなんでもするから。生きる為に、女の命令に従うしかないから──。


 この世界に神様はいないから。人生を壊された恨みを吐く意味も込めて、パートナーである真菊まぎくと共に世界を壊すことを選んだ。


 陽陰おういん学園の外観を見上げる。


「結界、本当に壊したのか?」


 私の半妖はんようの目は、それを捉えることができなかった。


「えぇ。春休み中にちゃんとね。張り直されてもいないわよ」


「張り直されそうか?」


「そうね。昨日が登校日で今日が入学式だから──〝気づく陰陽師おんみょうじ〟は気づくわ」


「へぇ」


 その言い方は、特定の誰かを差しているように聞こえた。誰のことを言っているのかは気になったけれど、聞くことはしない。私と真菊はパートナーはパートナーでもビジネスパートナーだから。余計なことを聞くべきではない。私も私のことに関することは絶対に聞いてほしくなかった。


「そういうことだから、見回りは頼んだわよ」


 真菊は六人義兄弟の長女で学校にも通っているから、深夜に陽陰学園にいるにしても限界がある。私にはママ以外の家族がいないから──心配してくれる相手もいない半妖だから、真菊に頼まれた通り深夜の陽陰学園を一人で歩いた。

 私はずっとママと共に山で暮らしていたから、学校という場所とは無縁の生活を送っていた。学校に対して思うことはないけれど、廊下を歩いたり教室の中に入ったりしているとほんの少しだけ虚しいと感じる。


 あの真菊でさえ学校に通っているのに、どうして私は学校に通うことができないんだろう。


 みんな一度は学校に通っていることを考えると、どうしてと思う心を止めることができなかった。

 ママだけがいればいい。私にはママしかいない。そう思っていた私にできたのは真菊という同い年のビジネスパートナー。もし、彼女が友達だったらって。もし、たくさんの友達ができたらって。そう思う心も止められなかった。


 何もかも知らないまま山で暮らしていたら、こんな欲は出てこなかったのに。


 知ってしまったから、私は今日も虚しくなる。

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