9月2日 ウェパル
人間が起こした戦争というものは、なんとも惨たらしくてわたしでさえも反吐が出る。けれど、数多の魂が地獄に落ちてきて地獄が潤ったのも事実だった。
『久しぶりね、ジルちゃん』
小さな魔女に声をかける。数々の墓地の中央で泣きじゃくっていたジルちゃんは、わたしを見上げて嗚咽を堪えた。
『わたしと契約した魔女は元々そんなに多くはなかったのだけれど、この戦争でほとんどが亡くなってしまったわ』
「魔女の人たちも、死んじゃったの?」
『えぇそうよ。ちっぽけな村の疫病にばっかり構っていたジルちゃんと違って、みんな戦争に駆り出されてしまったのだから』
「…………」
『そんな顔しないでちょうだい。誰もあなたみたいな子供が魔女だなんて思ってないでしょうし、きっと知られていたとしても駆り出されることはなかったわよ』
「そんなこと、ないと思う」
『え?』
「そういうものだと、思うから」
ジルちゃんは、子供なのに妙に達観している部分があった。いや、何もかも諦めてしまって悪魔に頼らざるを得なくなった子だからそうなのかもしれないと思ってしまった。
『あともう一つ、言いたいことがあるのだけれど』
「なに? ウェパル」
『他の悪魔と契約していた魔女たちも全員死んでいったってこと。あいつらが契約者を増やさない限り、あなたが世界で唯一の魔女ということよ』
「そう、なの?」
ジルちゃんは疲れたような表情でわたしを見上げた。誰も疫病から救うことができなかった悪魔の契約者である魔女は、もう力を使う気はないようだった。
『えぇ。世界中の人間は、魔女が全滅したと思っているの。ジルちゃん、あなたがその力を今後何に使おうがわたしにとってはどうでもいいことだけれど、お願いだから……なるべく長く生きてちょうだいね』
「生きる、って」
『生きてちょうだい』
「ウェパルは悪魔なのに変なこと言うね」
『悪魔にも心というものはあるわ。みんなね、自分の契約者のことが大好きなの。わたしはジルちゃんが大好きなの。だから、できるだけ長く生きて老いてしまったあなたを攫いたい。これは本当の本当の本当に、今わたしが思っていることよ』
だから呼ばれてもいないのにジルちゃんが一人で生きる村に出た。
終戦を知らない、そもそも戦争があったことさえいまいち理解できていない孤立した幼いジルちゃんは、まだ何もわからないだろうけれど。
「わかった」
そんなジルちゃんに、いつか家族ができたらいい。そう思うのはわたしのエゴだろうか。