8月3日 ティアナ・シルヴェスター
昔、おばあちゃん以外の魔女が戦争で全員亡くなったから。だからおばあちゃんもいつか亡くなるということは、その話を聞かされた幼少期の頃からわかっていた。
おばあちゃんは段々歳をとっていって、私もどんどん成人に近づいていって、けれど、なんの前触れもなく亡くなるとは思わなくて──ある日突然おばあちゃんを亡くした私は、呆然とおばあちゃんの亡骸を見ていた。
『ティアナ』
おばあちゃんの異変に気づいておばあちゃんの部屋に来た時、何もかもが手遅れだった。
『お、おばあちゃ……』
『貴方に、託してもいいかしら』
『……な、何を?』
『私ね、約束をしているの。日本の、陽陰町の、研究者の……綿之瀬シキさんと。その人が、もし、イギリスに来たら……私の代わりにティアナが会ってくれる?』
おばあちゃんの願いならばなんでも叶えてあげたいと思っている。だって、ダンカン家の人間ばかりだったこの古城で唯一の血縁者が私のオリジナル体のおばあちゃんだったから。
私とおばあちゃんはオリジナル体とそのクローンという関係だったけれど、本当のおばあちゃんと孫のように接していたと思うから。叶えることができるのならば叶えてあげたい。
『わかった』
頷いておばあちゃんの手を取った。おばあちゃんは微笑んで、微かに残った力で私の手を握り返してくれた。
『ティアナ、私……みんなに出逢えて、嬉しかったわ。今までありがとう』
傍にいてほしかったけれど、生きている以上そんな我儘は言えそうにない。
『私も……私も! おばあちゃんの〝クローン人間〟で本当に良かった……!』
だから、言えることは全部全部言いたかった。造られた命だったけれど、魂は違うから。だから、おばあちゃんで良かった。本当にそう思っている。
『……最期に、〝あの人〟に会いたかったわ』
掠れた声でおばあちゃんが本音を漏らした。一筋の涙がおばあちゃんの頬を伝っていく。握られていた手の力が消えていく。
『おばあちゃんッ!』
一瞬だけ、おばあちゃんの手に力が入った。このままじゃ死ねない、そう言っているかのようで私からも涙が溢れる。
そうだよ。このまま死んだら絶対駄目だ。悔いがあるなら私が叶えてあげるから。
『……ティアナ、お願い、シキに会いに行ってくれるかしら』
絶対におばあちゃんの悔いを拭い去ってあげるから。
『勿論!』
綿之瀬シキという人間はおばあちゃんとの約束を守らなかったけれど、私は絶対におばあちゃんとの約束を守るよ。