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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2020年
160/201

2月7日   雪之原伊吹

 かあさんに連れられて来た場所は、お葬式をする場所だった。誰かが死んでしまったらしい、かあさんは誰が死んでしまったのか言わなかったから──僕は誰が死んでしまったのか知らなかった。


 僕はどうしてここにいるんだろう。


 誰かが死んでしまったことはとても悲しいことだけれど、みんなが悲しんでいるこの場所で僕はどんな風に悲しめばいいのだろう。

 お葬式に来る時はいつもそう思っていたけれど、今回のお葬式は少しだけ違っていた。みんなが悲しんでいるわけではなさそうで、けど、端っこにいる人たちはすっごくすっごく泣いているから──その人たちにとってはすっごくすっごく大切な人だったんだと思う。その中にアイラお姉ちゃんがいることに気がついて、僕は亡くなってしまった人の写真を探した。


「かあさん」


「……ん? 何?」


 見上げたかあさんは泣いていなかったけれど、他の人たちと比べたら悲しそうだった。その人はかあさんにとっても大切な人だったらしい。


「どうして写真がないの?」


 そんなに大切にされてたのに、どうしてどこにもその人の写真がないんだろう。その人は《十八名家じゅうはちめいか》のはずなのに。


「……撮られることが嫌だった人なのよ」


「……そうなんだ」


 それ以上聞くことはできなかった。


伊吹いぶき


「ん?」


「あのね、伊吹が二歳の時に……とてもたくさんの人が伊吹のお兄さんとお姉さんになってくれたの」


「え?」


 僕にはお兄ちゃんもお姉ちゃんもいない。お兄ちゃんお姉ちゃんって呼んでる人たちはいるけれど。


小町こまちお姉ちゃんと、亜子あこお姉ちゃんと、愁晴しゅうせいお兄ちゃんと、るいお兄ちゃんと、桐也きりやお兄ちゃんと、エビスお兄ちゃんと、アリアお姉ちゃんと、いぬいお姉ちゃん。その人たちのことを──ずっと、ずっと、覚えていてほしいの」


 かあさんは何を言っているんだろう。その人たちがお兄ちゃんとお姉ちゃんなら、どうして僕の隣にいないんだろう。どうしてかあさんは、僕の知らない人たちをお兄ちゃんとお姉ちゃんって言って──覚えててって言うんだろう。


 でも。


「わかった」


 かあさんがそう言うなら僕はずっと覚えてる。顔を知らない人たちのことを。


「ありがとう」


 どうしてかあさんはそう言うんだろう。僕には難しくてわからないことばっかりな気がする。


「覚えていてくれたら、みんな、きっと喜んでくれるはずだから」


 かあさんの声は震えていた。今にも泣いてしまいそうだった。


 僕は、その人たちじゃなくてかあさんに喜んでほしかった。

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