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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2020年
159/201

2月5日   炎竜神煌火

 私は《紅炎こうえん組》の犬。《十八名家じゅうはちめいか》の汚れ仕事を請け負っている《紅炎組》の、そのさらに汚い仕事を請け負っている汚い犬。

 私が《紅炎組》の犬なのは、姉様が炎竜神えんりょうしん家の現頭首で《紅炎組》の組長だから。姉様が炎竜神家の現頭首で《紅炎組》の組長なのは、姉様が人魂の半分妖怪だから。かがりが《紅炎組》の犬なのは、私の息子だから。


 ──炬を産む四年前に、私は自分の宿命を知った。


 《十八名家》の炎竜神家の一人として、町と人を守る為に百鬼夜行が起きた時はその身を呈して百鬼夜行を止めること。私は永遠に《紅炎組》の犬であることを。

 姉様がどれほど偉大な人でも眩しすぎるその光には届かなくて、姉様が産んだひそかめぐむ依檻いおりの為に私と同じ道を歩むことが決まっていて、そんな絶望に抗うような気力はなくて受け入れていた。


 炬がお腹の中にいるってわかった時、炬がどんな宿命を背負うのかもわかってしまったはずなのに。姉様や私がこの世界にいるように、姉様が密を産んでしまっていたように、私たちは産むことを止めることができない。


 炎竜神家が永遠にこの世界にあるように。人魂の半妖はんようの力を途切れさせないように。我が子に永遠の宿命を背負わせる。


 それが《十八名家》だった。


 ごめんなさい。こんな世界に貴方を産んでしまってごめんなさい。私は私の人生を諦めるから、貴方も──諦めてなんて、母親なんだから本当はこんなこと言いたくない。


煌火こうか様ッ!」


 姉様は現頭首兼組長という立場を密に譲って、隠居している。私ももう若くない、《グレン隊》として伸び伸びと生きているらしい炬に私が持っていた権力すべてを譲って、遠くから炎竜神家と《紅炎組》を支えることに尽力している。


「……何」


 そんな私に、炎竜神家の人間が焦ったような声と表情で報告することはないはずだった。


「炬様が! 病院に運ばれて!」


 炬が病院に運ばれることもないはずだった。だって、彼の隣には今座敷童子の人工半妖のアリアという名の子供がついているんでしょう? 彼女がずっと、炬の怪我を治していたでしょう? その子は何をやっているの?


「あの……っ」


 報告に来た男の視線が落ちる。彼はすべてを知っている。


「話しなさい」


 嫌な予感がした。そんなことはあり得ないと思いたかった。



「……炬様が、山火事で……炎に焼かれて亡くなったそうです」



 信じられなかった。だって、私たちは炎竜神家の人間だもの。人魂の血を継いでいるんだもの。


 ……信じたくないじゃない。

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