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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2019年
158/201

8月27日  鬼寺桜虎丸

虎丸とらまる


 俺にそう声をかけたのは、椿つばきちゃんを産んだばかりの母様だった。


『はい?』


 なんだろう。兄としての自覚をとか言われるのだろうか。産まれたばかりの妹を守りたい、守らなきゃ、そう思っているし俺ももう子供じゃないからそんなことを言わなくてもいいのに。


『椿は、鬼寺桜きじおう家の祖である鬼の生まれ変わりです』


『え?』


 瞬間、母様は俺の予想を大きく上回ることを言った。

 俺たちは鬼の子孫。それは二十歳になったら知らされる情報だが、俺は特別だからって教えてもらった俺たち鬼寺桜家の秘密。


『私に〝もしも〟のことがあって、椿に〝もしも〟のことがあったら、鬼寺桜家の威信にかけて──』


 嫌だ。何も聞きたくない。そう思ったのは俺の本能なのだろうか。



『──殺しなさい』



 これが、鬼寺桜家に産まれた半妖の兄弟としての運命なのだろうか。


「……丸、虎丸、起きなよ」


 軽く揺さぶられて目を覚ます。俺の顔を覗き込んでいたのは蒼生そうせいで、「あのさぁ」とあからさまに溜息を吐かれた。


「勤務中に寝るのは良くないよ? 確かに朝パトロールでドタバタしたけどさぁ」


「うげっ! やべぇ!」


「チクらないから安心して。けど二度はないからね」


「蒼生〜! サンキュ〜! やっぱ持つべきものは最高のダチだな〜!」


「最高の同僚の間違いじゃない?」


「それもあるな! 蒼生、マジで地域課に来てくれてサンキュー!」


 ただ、蒼生にはちょっとだけ悪いことをしたと思う。蒼生は輝司こうしが隊長をしてる《カラス隊》の隊長に選ばれた男で、蒼生は地域課の仕事があるからとその話を蹴ったのだ。


 俺は、悪いヤツを倒す警察官になる。ならなければならない。俺がこの世界に産まれてきた意味は、俺たちの祖の鬼の生まれ変わりである椿ちゃんを倒さなければならない──鬼退治にあるから。


 椿ちゃんが永遠に普通の半妖はんようであれば俺は椿ちゃんを倒さなくて済む。ただ、俺には陰陽師おんみょうじの力があった。

 間宮まみや家の陰陽師と結ばれることが多い鬼寺桜家で陰陽師の力を持っている親族と持っていない親族は半々に別れるだろう。俺はその半分にいるから、鬼退治をしなければならない運命を背負っているような気がして。


 生まれ変わりってだけで退治される未来があるかもしれない椿ちゃんを思うと、悪いヤツが退治されない世の中はおかしいと本気で思ってしまう。


 お婆様も、母様も、椿ちゃんも、俺をそんな運命に縛る為に産まれてきたようで。そんな運命に縛る為に産んだようで。泣きそうになった。

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