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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2019年
157/201

8月3日   ハルラス

 僕が共に暮らしていた同族は、人間でも亜人でもない者の手によって殺された。彼らの正体は人造人間。人間の手によって造られた──正真正銘、本物の化け物だった。


 造られた命や魂を持つ彼らに、僕たちエルフの正真正銘の命や魂を否定されたくない。否定されるべきは彼らの方なのに。何故僕の同族は殺されたのだろう。何故ララノアの同族は殺されたのだろう。


 首謀者であるイマニュエルはララノアが殺した。僕とララノアの同族を殺した実行犯のハリソンと共犯者のハーパーは僕が殺した。

 同じく実行犯のニコラとニコラスは、たった一人だけのニコラを残して僕とララノアの二人で殺した。


「ハルラス! どうだどうだどうだ?!」


 イマニュエルらが暮らしていた城の屋上から町を眺めていると、ララノアが声をかけてくる。イマニュエルらに復讐をし、イヌマルと名乗った〝亜人の掟〟を守る彼らと別れてから二日が経った。

 町を歩く人間は全員イヌマルの仲間である魔女に記憶を弄られており、この町にイマニュエルやハーパー、ハリソンらが暮らしていたことを覚えている者は本当に一人もいないように見える。


「問題はなさそうですね」


 魔女という存在は恐ろしい。だが、本当に恐ろしいのは人間だ。僕もララノアもそれを知っている。


「ふーん。じゃあ行くか?」


 ララノアは僕の隣に立って、僕と同じ景色を眺めた。


 行くというのは僕たちの故郷がある森の中に行くということだ。だが、帰るということではない。

 僕の故郷もララノアの故郷ももうないのだ。どこにも帰れないのだ。こんなにも辛いことはないと思うくらいに辛い数ヶ月だったが、僕たちの復讐はここで終わりにしないといけない。僕たちはそれをイヌマルらと約束した。


 二人で城から飛び下りる。


 ダークエルフとエルフの長い長い歴史の中で、その二つの種族が共に生きたという証はない。けれど僕たちは今日から共に生きていく。今日から僕たちはずっと一緒だ。


「ララノア」


「ん?」


 先を走っていたララノアが振り向いて僕を見つめる。


「もしいつか、同族を見つけることができたら」


「そんなこと言うなよ、ハルラス」


「っ」


「確かに、ダークエルフとエルフは全滅したわけじゃない。森の中を探せば群れは他にもあるはずだ」


 だから。もし同族を見つけることができたら。


「それでも、そいつらと一緒に生きる気はない。だって私はもう他のダークエルフとは違うから」


 そんな僕の不安を簡単に拭って、ララノアは笑った。

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