7月29日 ララノア
ハルラスというエルフが人間のような何かに襲われたと言って私たちの群れに逃げてきた時、私はハルラスを情けない奴だと嘲笑った。
ダークエルフは強い。森の中の亜人にならば絶対に負けない。だから、戦うことをせずに一人で逃げてきたハルラスの弱さを揶揄った。
群れのリーダーもハルラスを嗤った。だが、ハルラスの群れが何者かに襲われてなくなったのは事実だ。リーダーとしてハルラスの話は聞くらしく、ハルラスはリーダーと共に奥の森へと消えていく。
「弱い奴は死ぬ! 弱い奴は死ね! この世は弱肉強食じゃ! エルフは弱いが故に喰われたんじゃ!」
「弱い奴が死ぬのは当たり前! エルフが死ぬのは当たり前! がははっ、可哀想な男だぁ!」
群れの連中はハルラスやその仲間のことを好き放題言う。私もそれに混ざっていた。
この世界は強い奴が勝つ。だが、戦わず逃げて生き延びたハルラスは死んだエルフたちよりも弱い。
ダークエルフにとって、そういうエルフは馬鹿にされて当然だ。ハルラスだってそれはわかっていたはずなのに、何故それをわざわざ伝えに来たのだろう。
弱い奴が負けるのは当たり前。仕方ない。そう思った瞬間、エルフではない者の気配を感じた。
「戦いだぁ!」
血が騒ぐ。視界に入れたのは、同じ顔を持つ人間の子供──二十人。男と女がいる。私はダークエルフだが、それが気持ち悪くてわざとらしく吐いて見せた。
瞬間に隣のダークエルフが弓矢を放つ。それは見事に男の頭に命中したが、男は何故か、止まらなかった。
「──は」
意味がわからない。頭は亜人人間関係ない、生きている者全員の弱点だ。致命傷のはずなのに、何故アレは動けるのだろう。
「気持ちわりぃ!」
男だけではない。この群れを襲撃した全員が、致命傷を負っても私たちに襲いかかってきた。
まるで、死体みたいだ。どんなに頑張っても殺せない相手とどうやって戦えと言うのだろう。
「逃げろ!」
叫んだのはハルラスだった。けど、私たちはダークエルフだ。逃げるなんて選択肢はない。そもそも、死なない化け物相手に逃げ切れる自信がない。
「……あわ」
恐怖に震える自分に生まれて初めて出逢うことができた。出逢いたくなかった。それでも戦う、それがダークエルフだから。
「逃げろって!」
女に襲われかけたところをハルラスに救われた。ハルラスが女の足を切断したのだ、それでも女は、腕を使って進もうとする。
私は、ハルラスに担がれて生まれて初めて戦いから逃げた。