5月4日 ニコラス・ベネット
見飽きたニコラの顔が目の前にある。ニコラは二十もある水槽のうちの一つに入っていて、液体の中で眠っている。
──そろそろだ。
イマニュエルがそう言っていた。だから俺は待つ。ニコラが目覚めてこの世界に生まれるその瞬間を。
「ニコラス。こんなとこで何してるのよォ」
振り返らなくても誰だかわかる。この声はハーパーのものだ。
「もしかして、ニコラが生まれるのを見るのは初めての個体?」
「何度も見てる」
「あらァ? じゃあ見たってつまらないでしょう」
「そんなことはねぇよ」
ハーパーが言いたいこともわかる。何度も何度も同じ方法で、例外なくきちんと生まれてくるニコラや俺を見ても面白くはない。
「……ふぅん。変な個体ねェ」
「面白くねぇ。けど、〝いない〟のは違うだろ」
「……本当に変な個体ねェ」
「優しい子なんだろう」
車椅子で動き回るイマニュエルまでやって来た。なんなんだ、二人はいつもいないくせに。
「何しに来た」
苛立ちながらそう尋ねる。こいつらが考えていることは生まれてから今日まで一回もわからなかった。
「ニコラスと同じだ。ニコラ生まれる瞬間を見に来たんだよ」
「だから。お前らはいつも来ねぇだろうが」
俺たちを造ったくせに、こいつらは俺が知る限り俺たちが生まれた瞬間に立ち会ったことが一度もない。だから変なのだ。このニコラは、今までのニコラや俺にはないものを持っているのだろうか。
「……失敗したかもしれなくてね」
「なんで。お前前に手順通りに造ればちゃんとできるって」
「造らなかったんだよ、手順通りに」
「え」
「この子は他のニコラとニコラスとは違う。この子は、ハリソンに似せて造っているんだ」
「……なんだそれ。じゃあこいつはニコラじゃねぇじゃねぇか」
「そうだよ。この子は、ハリソンの能力を持つニコラ。だから、ちゃんと生まれてくるのか確かめたくてね」
「なんで……なんでそんなことすんだよ!」
俺たちは人間じゃない。イマニュエルに造られた人造人間だ。けど、命がある。心がある。魂を持っている生き物だから、化け物でも──俺は生まれたばかりのこいつらの傍にいてあげたいって思っていた。
何故俺たち化け物を生み出したと、生みの親のイマニュエルを問い詰めることも恨むことも絶対にしない。最低限の倫理観とイマニュエルなりの正義感を持って俺たちを造っていると信じていたから。なのに簡単に裏切られる。
「…………データが存在しません」
このニコラはニコラじゃない。