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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2018年
151/201

11月27日 あんこ

 ご主人が死んだ。にゃあを置いて死んでしまった。


 ご主人が死んでもずっとずっとご主人の傍にいたけれど、ご主人は人間に連れてかれた。にゃあは人間に連れてかれなかった。人間にはにゃあが見えていないようだった。


 ご主人の家にあったご主人のものもにゃあのものもなくなって、ご主人じゃない人間が住むようになって、にゃあは初めてご主人の家の外に出る。


 見たことのない景色。嗅いだことのない匂い。にゃあはご主人との世界しか知らないから、ご主人がいない世界は怖い。ご主人がいなくなったにゃあは、どこに行けばいいのだろう。


『寂しい』


 どうやって生きればいいのだろう。


『辛い』


 それは、全部全部ご主人が教えてくれてたこと。にゃあに与えてくれたもの。


「……大丈夫?」


 足を止めた。知らない人間の声、匂い、姿。


「どうしたの? 何かあったの?」


 誰もにゃあを見てくれなかったのに、その人間はにゃあを見る。近づいてきて、しゃがんで、にゃあに話しかけてくる。


『おまえ……』


「あ、僕は猫鷺真ねこさぎまこ犬神いぬがみの人工半妖はんようで伯母さんが猫又ねこまたの半妖だから、犬や猫の言葉がわかるんだ」


『……にゃあが、見える? にゃあと、話せる?』


「うん。見えるし話せるよ。だから、何かあったのか話してほしいな。力になれるかもしれないから」


 にゃあは真に全部話した。ご主人や人間のこと。家のこと。にゃあのこと。


「じゃあ……僕と一緒に来る?」


『おまえと……?』


奏雨かなめお兄さんは、事情を話せばわかってくれると思うし……一緒に暮らそうよ」


『……嫌だ』


 にゃあは真が伸ばしてきた手を叩く。


『にゃあの家はあの家だけだ。おまえとは一緒に暮らさない』


「じゃあ、僕と友達になろう!」


 真はまだ手を伸ばしてくる。にゃあを緑色の猫によく似た目で見て笑っている。


「それならいいでしょ? ねっ?」


『……ともだち』


 それがなんなのかにゃあにはわからない。けれど、真が言うなら悪いことではないような気がする。


『わかった』


「ほんとっ? やったぁ!」


 真はにゃあを抱き上げてくるくると回った。にゃあは辛かったけど、真は嬉しそうだった。


「友達! 君は僕の友達だよ!」


 真は友達が欲しかったのだろうか。にゃあにはよくわからないけど、真が嬉しそうならそれでいい。



「──これからよろしくね、〝あんこ〟!」



 にゃあを見つけてくれた真が幸せならばそれでいい。にゃあは、真が見つけてくれて──嬉しくて。幸せだったから。


 これからずっと、真の傍にいたいと思った。

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