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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2018年
150/201

8月27日  レオノーラ・クラーク

 わたしはエヴァの友人でもなければギルバートの友人でもない。


 エヴァとは四歳、ギルバートに至っては七歳も歳が離れている。共にいれば姉弟のような仲になっていただろう。

 こんなことになるならば、もう少し二人と話をしてみたかった。共通の話題はないかもしれないけれど、二人のことを知りたかった。


 エヴァから手渡されたのは、エヴァが噛まれてからずっとつけていた口輪だ。この村を救ってくれたクレアやグロリアと共に行くと決めた彼女にとって、この口輪はもう要らないもので。人間と共に暮らせないと諦めて、自分たちだけで生きると決めたわたしたちにとっても要らないもので。それでも、わたしとエヴァにとってこの口輪は何よりも大切なものだった。この事件を忘れてはならない。この絆を忘れてはならない。それを象徴するようなものだったから。


「エヴァ……!」


 いても経ってもいられなくてエヴァのことを抱き締めた。

 さようならと言っても言い足りない。エヴァが人狼に噛まれるまで、そしてわたしが人狼に噛まれるまではなんとも思っていなかったのに──半身が引き裂かれたかのような悲しみを感じる。


 人狼は、群れて生きるらしい。なのにエヴァはギルバートを思って旅に発つ。人狼が一人で生きることがどれほど不安で寂しいものなのか、わたしは本能で理解していた。だから、ギルバートがこの村でどれほど寂しい思いをしていたのかも今だからこそ理解している。


 わたしは弱い。一人で生きていた時期があるギルバートよりも。

 エヴァは強い。村長の孫として偉そうにしていたわたしよりも。


「ありがとう、レオノーラ」


「エヴァ。頑張ってね」


 本当ならば、年上のわたしが頑張るべきことだ。


「うん。レオノーラも、頑張って」


 けれど、エヴァはわたしが頑張っていると認めてくれている。


「みんなのこと、よろしくね」


 わたしはエヴァみたいに旅に出ることはできない。わたしはエヴァやギルバートのように独りにはならない。

 その理由は、ギルバートに噛まれた人狼の仲間がいるからだ。


 わたしはエヴァに憧れるし、エヴァのようになりたいけれど、彼らを見捨てることはできない。

 彼らを言い訳に使っているけれど、最初にわたしが憧れた人は祖父のエドモンドだ。エヴァのようになる為には、まずエドモンドのように人の上に立てるものになってからでも遅くはない。いつか、一人で生きる人狼を受け入れられる村を作れば──エヴァのようになれるだろうか。

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