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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
1900年
15/201

6月4日   エンマ

「俺を斬るのか」


 義彦よしひこが嗤う。自分が殺されるかもしれない、そんな時でも義彦が嗤うのは自分の命に興味がないからだ。


 義彦の気持ちがわかるのはエンマが義彦の写し鏡でもある式神しきがみだからで、エンマも自分の命に興味がないからで。


 ──なのに、他人の命には興味があるから義彦と共にたくさんの化け物を殺し続けた。


 エンマは、義彦を殺そうとしている間宮まみやの女をじっと見つめる。

 間宮の女も、エンマたちと同じで他人の命に興味があった。だから、エンマたちが《十八名家じゅうはちめいか》の半妖はんようたちを殺したことを一人の人間として許せなかったらしい。


「やはりお前は間宮だな。半妖を殺すことの何が悪いのか言ってみろ」


 そんな義彦にも、許せないことがある。


「本気で言っているのか。よく見ろお前が殺したのは人間だぞ」


「お前こそよく見ろよ。この姿形をした化け物が人間だって? 本気でそう言っているのか?」


 義彦は、間宮の女が幼い頃からの知人であるから素の自分を出してそう答えた。


「本気だ。同じ命なんだぞ、私たちと同じ血が流れているんだぞ、言葉を交わして生きてきただろう、何が──何が化け物だ」


「……俺はさぁ、姿形が違うものを人間って呼ぶ奴が大嫌いなんだよなぁ」


 同じくらい、化け物のことが嫌いだから。当たり前のように、人間と共に生きているから。

 陰陽師おんみょうじとして妖怪を殺し続けている自分よりも楽しそうに、生き生きと、自由に世界に触れているから。許せなくて、大嫌いなのだ。


「奇遇だな。私もお前が大嫌いだ」


「じゃあ、斬っていいよな」


「私もお前を斬る。地獄で彼女たちに詫びろ、義彦!」


 間宮の女が腰を下ろす。義彦よりも妖怪を殺していない女のその構え方では、義彦は殺せない。義彦は化け物を殺す前から妖怪を殺し続けている男だ。その手は既に汚れている。その心も既に朽ちている。



「──土御門つちみかどの名に懸けて、罪人であるお前を殺す」



 間宮家は罪人の家。妖怪を愛してしまった陰陽師の裏切り者だから妖怪を殺す日々に関わることができない。

 そんな間宮の女のことも、義彦は化け物と同じくらいに嫌いだった。


 義彦の周りには義彦の嫌いなものが溢れている。義彦が好きなものはどこにもない。


 《半妖切安光はんようきりやすみつ》と名づけられた刀の切っ先が間宮の女に届くことはなかった。

 届いたのは、間宮家の家宝の《鬼切国成おにきりくになり》。それが義彦の腹部に刺さっている。


「ぁ」


 エンマの心臓も刺されたかと思った。エンマは義彦の式神なのに、義彦と共に死ねなかった。

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