8月26日 エヴァ・ハント
わたしは、わたしが人狼に噛まれても好きだと言ってくれたギルバートのことが好きだった。
その発言の本当の意味が、ギルバート自身が村を壊した人狼だったからでも。小さい頃からわたしを守ろうとしてくれるギルバートのことが大好きだった。
だから、ギルバートには生きていてほしい。ギルバートのせいでたくさんの村人が亡くなっていたとしても、大好きだから離れ離れにはなりたくない。
腕を引っ張られるギルバートの足を引っ張った。お願いだからわたしの大切な人を連れていかないで。ギルバートだけは殺さないで。
大粒の涙が溢れて止まらなかった。未来なんて来なければいい、この瞬間が永遠に続けばいい。願って、願って、願って、ギルバートが引っ張られなくなって希望を抱く。
ギルバートの腕を引っ張っていたグリゴレがこっちに来た。
わたしに顔を近づけて、わざとらしく吸血鬼の牙を見せて囁く。
「人狼のせいでこの村で亡くなった人たちには、〝こんな時間〟さえなかったんですよ」
それを一番よく見てきたのは、この村で生まれて過ごしてきたわたしだった。
「…………ぁ」
「〝別れの時間〟さえ与えられないまま、ある日突然大切な人を亡くしたんです」
知っている。ずっと見ていた。
「手を離しなさい」
気づいたら、ギルバートの足を離していた。離したらギルバートは行っちゃって、殺されるのに。
ずっと守ってもらっていたのに、わたしはギルバートのことを守れなかった。
ギルバートは何も言わない。言葉を交わせる時間はあるのに、自分の罪をわかっているのか諦めているのか何もわたしに話してくれない。
ギルバート。わたしはギルバートのことがもっともっと知りたいよ。今からじゃ遅いのかな。わたしがギルバートに何をあげられていたら、こんな未来は来なかったのかな。
「Eva, Leonora.」
クレアに声をかけられる。檻が開けられた。わたしとノーラは誰も殺していないから許されている、それがすごく悲しかった。ギルバートはこの村で唯一の人狼だから。一人じゃなかったらこんなことはしなかったかもしれないから──ギルバートのことを思うと涙が止まらない。
ギルバートを思うなら、わたしは駆けてクレアとグロリアの服を引っ張る。
「Take me too!」
ギルバートがくれた人狼の力だから。わたしはギルバートの為に使いたい。
今も、世界のどこかで泣いているかもしれないギルバートのような子供たちを救う為に生きたかった。