表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2018年
149/201

8月26日  エヴァ・ハント

 わたしは、わたしが人狼に噛まれても好きだと言ってくれたギルバートのことが好きだった。


 その発言の本当の意味が、ギルバート自身が村を壊した人狼だったからでも。小さい頃からわたしを守ろうとしてくれるギルバートのことが大好きだった。

 だから、ギルバートには生きていてほしい。ギルバートのせいでたくさんの村人が亡くなっていたとしても、大好きだから離れ離れにはなりたくない。


 腕を引っ張られるギルバートの足を引っ張った。お願いだからわたしの大切な人を連れていかないで。ギルバートだけは殺さないで。


 大粒の涙が溢れて止まらなかった。未来なんて来なければいい、この瞬間が永遠に続けばいい。願って、願って、願って、ギルバートが引っ張られなくなって希望を抱く。


 ギルバートの腕を引っ張っていたグリゴレがこっちに来た。

 わたしに顔を近づけて、わざとらしく吸血鬼の牙を見せて囁く。


「人狼のせいでこの村で亡くなった人たちには、〝こんな時間〟さえなかったんですよ」


 それを一番よく見てきたのは、この村で生まれて過ごしてきたわたしだった。


「…………ぁ」


「〝別れの時間〟さえ与えられないまま、ある日突然大切な人を亡くしたんです」


 知っている。ずっと見ていた。


「手を離しなさい」


 気づいたら、ギルバートの足を離していた。離したらギルバートは行っちゃって、殺されるのに。

 ずっと守ってもらっていたのに、わたしはギルバートのことを守れなかった。


 ギルバートは何も言わない。言葉を交わせる時間はあるのに、自分の罪をわかっているのか諦めているのか何もわたしに話してくれない。


 ギルバート。わたしはギルバートのことがもっともっと知りたいよ。今からじゃ遅いのかな。わたしがギルバートに何をあげられていたら、こんな未来は来なかったのかな。


「Eva, Leonora.」


 クレアに声をかけられる。檻が開けられた。わたしとノーラは誰も殺していないから許されている、それがすごく悲しかった。ギルバートはこの村で唯一の人狼だから。一人じゃなかったらこんなことはしなかったかもしれないから──ギルバートのことを思うと涙が止まらない。


 ギルバートを思うなら、わたしは駆けてクレアとグロリアの服を引っ張る。



「Take me too!」



 ギルバートがくれた人狼の力だから。わたしはギルバートの為に使いたい。

 今も、世界のどこかで泣いているかもしれないギルバートのような子供たちを救う為に生きたかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ