12月19日 妖目明彦
物心ついた頃から、自分の性別に違和感があった。
俺の家は《十八名家》の妖目家で、女系で、女が多い一族だ。だから男として産まれた自分の本当の性別が女なんじゃないかと疑うことは無理もない、そうずっと言い聞かせて、苦しみながら生きてきた。
苦しんでいない家族がずっと羨ましかった。
「明彦。今日まで健やかに生きていてくれたこと、妖目の頭首として感謝します」
今日は俺の二十歳の誕生日なのに、伯母様は祝ってくれなかった。お母様は喜んでいるようには見えなくて、お父様が妖目家の人間になっていればどんな反応をしてくれたのだろうと思う。
俺はお父様の顔も伯父様の顔も知らない。名前や年齢も当然知らない。妖目家に女が多いのは伴侶を家に迎えていないからで、自分が男として産まれてきたのは何かの間違いのような気がして傷ついた。
こんなことを二十歳の誕生日に気づきたくなかった。
「私は、九尾の妖狐と百目の血を引く半妖です。一玻、明日菜、明彦にも、九尾の妖狐と百目の血が流れています」
伯母様が顔色を変えずにそう言った。伯母様が嘘をつくことはあるが、冗談を言うことはない。
「陽陰町には妖怪がいて、奴らとは千年前から戦っています。それは妖目家だけではなくすべての《十八名家》の宿命です。一玻と明日菜は巫女として、そして、明彦は妖怪の血を引く人間として、町が百鬼夜行に襲われた際は町と人々を守る為に……命を懸けて、戦ってもらいます」
伯母様の周辺に不自然に風が発生する。それは目を開けていられないほどの突風となって、俺を襲う。
「あ……」
開けられるようになった双眸が捉えたのは、伯母様であって伯母様ではない。
「嫌だとは言わせません」
嫌だと言えるわけがなかった。伯母様の──妖目家の現頭首の言うことは絶対だ。そんな人に逆らえるわけがなくて。九尾や狐耳を生やし、全身に目玉を咲かせた伯母様の百目から、逃げられるわけがなかった。
「安心しなさい。百鬼夜行が来ない限り貴方たちが死ぬことはありません。妖怪と戦うのは半妖である私たちのみです」
半妖と人間の違いを問う前に見せつけられた俺は、視線を落とす。何も安心なんてできない。俺がずっと羨んでいた伯母様が一番苦しかったはずなのに、伯母様は苦しみを表に出さない。
「私には熾夏という娘がいます。彼女は明日菜の姉で、半妖です。いつか我が家に帰ってきた時は、熾夏を頼みますよ」
俺は、女としてこの世界に産まれたかった。