12月13日 白院・N・千桜
「千桜、貴方を解放します」
表に出ることを辞め、家の中に引きこもるようになった私にお姉様が淡々と言葉を告げる。
解放──私は別に閉じ込められていたわけではない。自らの意思で家の中にいた。長い間引きこもっていたからかお姉様の言いたいことをすぐに理解することができず、数秒固まる。
「勘当です」
心臓も止まる。私はずっと、お姉様に尽くしてきた。お姉様の傍にいた。桐也を亡くして、傍にいることができなくなって、引きこもっていたら勘当……?
戸惑って、何かを言わなければならないと焦る。けれど、お姉様は何も悪くない。悪いのは、務めを果たすことができない私。
桐也しか産まなくて、桐也を亡くして、第二子をと親族全員から望まれたのに拒んだ私。
「……あ、ぁ」
私はお姉様にとっても親族にとっても不要な存在。そう告げられて失くしたのは責任だ。
お姉様が何を思っているのかはわからないけれど、勘当されても私にはデメリットがない。メリットしかない。殺されないだけ幸せなのだと感じて涙が溢れる。
次の春で、百鬼夜行があって二年経つ。私はこの二年何をやっていたのだろう。
ヒナギクのこともスズシロのことも亡くさなかったお姉様だけど、桐也のように亡くなってしまった親族は大勢いる。他の家の現頭首も数名亡くなっている。白院家の現頭首であり総大将でもあるお姉様が折れずに今でも戦っているのに、私は、何故、何故──桐也ただ一人の喪失の痛みにここまで傷ついているのだろう。何故、お姉様の妹なのにここまで弱いのだろう。
「ごめんなさい、お姉様、ごめんなさい……!」
「それは、何に対する謝罪ですか」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……! 弱くてっ、私、お姉様ぁ!」
「貴方に強さは求めていません。誰かに求められたこともないでしょう」
そうだ。そうだった。ずっとずっとそうだった。
求められてばかりだったのはお姉様だ。私に望まれていたのはお姉様の子であり次期頭首であり次期総大将であるヒナギクを支える人間を産むことだけ。
産んで満足していた。安心していた。これで私の役目は果たせた、桐也を亡くしてからまた望まれた、それだけの話なのに──こんなにも辛かったのは。
「私、頑張りますから……!」
「何をですか」
「桐也の代わりに、ヒナギクを支えますから……! だから、桐也の代わりを産めだなんて言わないで……」
私が桐也を愛していたから。代わりなんていない、大切な子供だったから。