12月1日 小田原千都
真顔の子が百妖歌七星。どうしてここにいるのかと困惑している子が二階堂瑠花。
「合格おめでとうございます」
オフィス街の一角にある芸能事務所の中でそう告げたのは、泡魚飛家の人たちばかりがアーティストとして所属している会社の社員の人。彼らにとっては私と瑠花が初めて一般から採用したアーティストで。彼の視界によく入っていたのは歌七星で。瑠花ほどじゃないけれどどうしてここにいるのだろうと思う。
「三人は、《Quartz》として来年の六月にデビューしていただきます」
目が合わなくても頭数にはきちんと数えられていた。説明があまり頭に入ってこなかったけれど、私たちの話をしているんだから聞かなくちゃいけない。
「──以上です。何か質問はありますか?」
長い間聞き続けて、疲れ切った頭を解しながら二人の反応を伺う。同じように反応を伺ったのは瑠花で、歌七星は「ありません」と、興味がなさそうにそう答えた。
……歌七星は何故、ここにいるのだろう。
彼女はオーディションの時、圧倒的な才能で私たちの自信をへし折った。へし折られなかったのは瑠花で、彼女は誰よりも楽しそうに歌っていた。
私には、あのオーディションで爪痕を残せた記憶がない。選ばれた以上は胸を張るけれど、歌七星のような才能も瑠花のような才能もない。
「何故、私は選ばれたんですか」
思わず尋ねる。歌七星と瑠花の反応を見ていたが、歌七星は表情筋を動かさない。瑠花はわかりやすく動揺していた。
「ダンス、だそうですよ」
力が抜ける。確かにダンスならば誰にも負けない自信があった。大人になっても踊り続けたかったから応募したと言っても過言ではないけれど、選ばれるほど重視されるとは思っていなかったのに。見ている人は見てくれていたのか。
「じゃあ私は?!」
「二階堂さんが一番アイドルだったと」
瞬間、今まで微動だにしなかった歌七星が社員さんに目を向けた。
「えぇっと、〝歌七星さん〟は……七緒様を超えるトップスターになれると」
急に吃った社員さんは歌七星の視線が苦手なようだ。私も今の歌七星に見つめられたら蛇に睨まれた蛙になる自信がある。
それくらい、歌七星はアイドルに向いていない。アーティストだったら泡魚飛七緒を越えられるだろうけど。
「歌七星さんはどうして応募したんですか?」
年下だけど、《十八名家》の人だから敬語を使う。
「……逃げたんです」
そう答えた彼女は絶対に、トップスターにはなれないだろう。