6月3日 土御門義彦
初めて半妖をこの目で見た時、世界は狂っているのだと理解した。
妖怪を見ても式神を見ても狂っているとは思わなかったが、人間の姿にも妖怪の姿にもなれる奴ら半妖があまりにも気持ち悪くて吐き気がした。
何故あんなのが生きているのだろう。何故あんなのが《十八名家》として人間の上に立っているのだろう。
半妖という存在を赦していいのか。半分妖怪で半分人間ということは、妖怪と人間が交わったことと同義で。だからこそ、赦されないと──存在してはならないと、思う。
「義彦。これが貴方の刀です」
譲り受けたのは祖父の太刀で、九百年前に生きていた刀工、因幡安光が打ったものだ。
それは美しく鈍く輝き、俺を魅了する。こいつを上手く使ってやらなければと思う。
「エンマ。行くぞ」
「わかったのだ」
式神のエンマは、俺がこれから何をするのかわかっていた。その上で止めなかったのだから式神は便利だ。意思のある妖怪は不要、俺の言うことを聞く妖怪ならば見逃してやっても良かったかもしれないが──やはり駄目だ。
あいつらには意思がある。妖怪の姿にもなれるが、人間の姿にもなれる。そうやってずっと、〝男〟を騙してきたんだろう。半妖が全員女であることも、その女が偉そうにしていることも、不愉快だった。
訪れたのは鬼寺桜家。半妖の始祖の家とされている鬼の家だ。
「やれ」
俺の一声でエンマが動く。エンマが鬼寺桜家の扉を破壊すると、遅れて中から人間が出てきた。
用があるのは人間ではない。妖怪の血が流れているという点では奴らも不気味で不愉快だったが、相手をしている余裕はない。
札を駆使して人間たちの動きを止め、その時を待った。半妖は女で、その家の現頭首だから。家族である、我が子同然の存在を見殺しにはしない。
「出てきたな」
その姿は、人間でもなければ妖怪でもなかった。
赤い長髪を風に靡かせて、二本の鬼の角を見せびらかし、赤目で俺を睨む女は化け物だ。俺が退治しなければならない。
「殺せ」
地面を蹴って飛んだエンマを受け止めたのは女が取り出した刀で、その刀は──陰陽師の刀に見えた。
「やっぱりそうか」
陰陽師には裏切り者がいる。鬼を愛した間宮家で、愛された鬼は鬼寺桜家で、罪人の罪はこれほどまでに重いのかと本気で憐れむ。
「──化け物が」
エンマに薙ぎ倒された女を自らの刀で刺して殺した。だが、これで終わりではない。始まりだ。結城家と小倉家と百妖家を抜いて、あと十四家もあるのだから。