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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2017年
137/201

6月3日   グリゴレ・ネグル

 その記事を視界に入れた時、私は何も感じなかった。あぁまたかとも、面倒だとも、赦せないとさえも思わなかった。


 新聞を私に持ってきたレオは私の顔色を伺っていて。私は息を吐いて次の目的地を決める。

 その記事には、とある町の殺人事件が書かれていた。周りの人間は遠い町の話だと他人事のような態度でその事件について話をするが、私やレオにとってはそうではない。その事件は、私やレオでないと解決できないほどに残酷な手口が使われた事件だった。


 そう思うのは、そんな殺し方をするのは吸血鬼だと感じるほどに、一人の人間から多くの血が流れていたからだった。吸血鬼の仕業でなかったとしても、亜人の仕業である可能性が極めて高い。人間には荷が事件だった。


 純血の吸血鬼を守る為に混血の吸血鬼を殺すこと。これは、レオを守る為に引き受けた使命だ。その頃の思いが変わったことは一度もないが、吸血鬼の混血の事件に関わっていくうちに──亜人を守る為の戦いになっていることも強く感じる。


 亜人は隠れて生きるべきだという主張をするつもりは毛頭ないが、人間と亜人が共存することは不可能だ。それを信じて疑わず、歩き出す。

 遠い町の話ではあるが、半日もあれば辿り着ける場所だ。レオは黙って私の後を追いかける。何度も何度も、私たちは同じことを繰り返す。


「…………は?」


 だが、一つだけ今までと違うことがあった。レオも戸惑い、私にどうするのかと判断を仰ぐように視線を向けてくる。


「どうして捜査をしていないんだ」


 警察署にいた警官に尋ね、レオのように無言で空を仰ぐ。辿り着いた町が犯人の捜査をしていなかった理由。それは、この町の近くの森に住み着いている魔女が原因だった。

 この事件の犯人は魔女のジル・シルヴェスターだ? 私は魔女を知らないが、魔女がそのようなことをするとは思えない。魔女は血を流さずに人間を殺せる者だろう、そんな先入観とも言える偏見があったからどうしても信じることができなかった。


 ──あぁ、面倒だ。


 久々に感情らしい感情が自分の中から生まれてきたことを感じて、微かに口角を上げる。

 何かが変わるような予感がした。変わってほしいと思ったことさえなかったが、何もない日々が急に色づいたような気がした。


 退屈、だったのだろうか。使命を遂行するだけ日々に不満はなかったが、久々に、生きている実感が湧いてくる。

 私はそんなに重症だったのだろうか。軽くなった足取りで月下を歩いた。

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