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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2017年
136/201

4月29日  葉柴湊

 小さい頃から、見えないものが見える。それは、小さい頃から隠し続けていた僕の秘密。

 白くて小さくてふわふわとした埃のようだと思えばいい。無視していれば日常生活に支障はない。けど、警察学校を卒業して配属された陽陰おういん町の〝それ〟は──くっきりと、僕の前に現れた。


「うわぁぁあぁッ?!」


 どこかで見たことがある妖怪絵巻。それに書かれた者たちが、黄昏時の町の至るところに存在している。

 屋根の上。空。それだけだったらまだ良かったのに、地面にもいて僕を狙っている。逃げたかったのに、僕の周りには誰もいなかった。突然大声を上げた僕からみんなが逃げたのだ。


「珍しいですね」


「……ッ?!」


 逃げなかったのは、《カラス隊》と名乗った軍服の男たちだけだった。


「見えるんですか? 〝あれ〟が」


 指差す先に〝それ〟がいる。あぁ、この人も、見えるのか──そう思った瞬間に力が抜けた。怯える僕と違って平然としている《カラス隊》の人たちの傍にいたら、死ぬことはないと思えた。


神馬じんばくんと霜里しもさとくんは見えますか?」


「見えません!」


「同じくですね」


「正直でよろしい」


 いや、まったく見えていない人もいるらしい。


長谷部はせべくんはどうでしょう」


「うっすら見えます」


「なるほどなるほど」


「隊長〜、もう始めていいですか?」


 そんな中で、誰よりも前に出ていく二人がいた。当たり前のように、背筋を真っ直ぐに伸ばして、戦いに行く人たちがいた。


輝司こうし様!」


 僕の上司が隊長と呼ばれた人に声をかける。輝司様ということは陽陰町の中で最も偉いという《十八名家じゅうはちめいか》の中の一人で、警察官ということは鴉貴からすぎ家か鬼寺桜きじおう家の一人で。


「我々には我々の仕事があります。葉柴はしばに用がないならもう……」


「あります」


 妙に食い気味にそう言った輝司様は、僕を──



「彼を《カラス隊》に差し出しなさい」



 ──僕を、欲しいとも言わずにただ求めた。


「……え?」


 上司はぽかんと口を開ける。周りに戻ってきた同僚たちも困惑していたけれど、輝司様の命令は絶対だったようで。僕が抜けたら困るとか、僕が欲しかった言葉は一つも言わずに去っていった。


「…………」


 残された僕は軍服の男たちに囲まれる。けど、誰も僕のことを見ていなかった。

 みんなが見ていたのは、妖怪に戦いを挑んだ例の二人だ。どこからか現れた着物姿の男女が、妖怪を次々と斬っていく。


 あんぐりと口を開けたまま彼らを見ていた。そんな僕と目を合わせた輝司様は、嬉しそうに僕を捕らえた。

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