4月29日 葉柴湊
小さい頃から、見えないものが見える。それは、小さい頃から隠し続けていた僕の秘密。
白くて小さくてふわふわとした埃のようだと思えばいい。無視していれば日常生活に支障はない。けど、警察学校を卒業して配属された陽陰町の〝それ〟は──くっきりと、僕の前に現れた。
「うわぁぁあぁッ?!」
どこかで見たことがある妖怪絵巻。それに書かれた者たちが、黄昏時の町の至るところに存在している。
屋根の上。空。それだけだったらまだ良かったのに、地面にもいて僕を狙っている。逃げたかったのに、僕の周りには誰もいなかった。突然大声を上げた僕からみんなが逃げたのだ。
「珍しいですね」
「……ッ?!」
逃げなかったのは、《カラス隊》と名乗った軍服の男たちだけだった。
「見えるんですか? 〝あれ〟が」
指差す先に〝それ〟がいる。あぁ、この人も、見えるのか──そう思った瞬間に力が抜けた。怯える僕と違って平然としている《カラス隊》の人たちの傍にいたら、死ぬことはないと思えた。
「神馬くんと霜里くんは見えますか?」
「見えません!」
「同じくですね」
「正直でよろしい」
いや、まったく見えていない人もいるらしい。
「長谷部くんはどうでしょう」
「うっすら見えます」
「なるほどなるほど」
「隊長〜、もう始めていいですか?」
そんな中で、誰よりも前に出ていく二人がいた。当たり前のように、背筋を真っ直ぐに伸ばして、戦いに行く人たちがいた。
「輝司様!」
僕の上司が隊長と呼ばれた人に声をかける。輝司様ということは陽陰町の中で最も偉いという《十八名家》の中の一人で、警察官ということは鴉貴家か鬼寺桜家の一人で。
「我々には我々の仕事があります。葉柴に用がないならもう……」
「あります」
妙に食い気味にそう言った輝司様は、僕を──
「彼を《カラス隊》に差し出しなさい」
──僕を、欲しいとも言わずにただ求めた。
「……え?」
上司はぽかんと口を開ける。周りに戻ってきた同僚たちも困惑していたけれど、輝司様の命令は絶対だったようで。僕が抜けたら困るとか、僕が欲しかった言葉は一つも言わずに去っていった。
「…………」
残された僕は軍服の男たちに囲まれる。けど、誰も僕のことを見ていなかった。
みんなが見ていたのは、妖怪に戦いを挑んだ例の二人だ。どこからか現れた着物姿の男女が、妖怪を次々と斬っていく。
あんぐりと口を開けたまま彼らを見ていた。そんな僕と目を合わせた輝司様は、嬉しそうに僕を捕らえた。