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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2017年
135/201

3月3日   霜里尊

 大学に受かった。たった今合格発表を確認した俺は、長い長い息を吐く。

 合格するとは思っていたが、受かっていて良かったと安堵して──暁都あきとからの電話に出る。


「もしもし暁都? 俺……」


『なぁなぁたける! 俺受かってた!』


 俺だけ受かっていたらどうしよう。暁都は学力がないから心配していたが、杞憂だったようだ。


「マジで?! 良かった、俺も……」


『お前も応募してみろよ!』


 瞬間、暁都と話したい内容が異なっていることに気づく。応募ってどこに? 誰かのライブか? それとも、暁都の学力でも合格できる大学なのか──。


『《カラス隊》! 警察署が募集してる組織でさ、職歴学歴資格がなくても警察官になれるんだよ!』


「お前それ騙されてるぞ!」


 意味がわからなかった。そんなに簡単に警察官になれるものか。慌てて暁都が言う陽陰おういん警察署のホームページに行くと、本当に募集していて度肝を抜かれる。


「いやいやいや! 警察官っつっても誰でもやりたがらない汚ぇ仕事をやらせるつもりなんじゃねぇの?! 面接はどうだったんだよ!」


『え? そういえばやってねぇ!』


「駄目じゃねぇか!」


『いやいやいや! でもお前だって駅前で見たことあるだろ?! あの真っ黒な軍服!』


 そう言われて二つのことを思い出す。駅前に暁都が言う真っ黒な軍服を着用した男たちがいたことも。暁都の初恋が高校の入学時で、相手が百妖歌七星ひゃくおうかなせだったこと。


 百妖は《十八名家じゅうはちめいか》の一つだ。暁都が《十八名家》に憧れていたことも、少しでも近づきたいと思っていたことも、知っている。だからって、わけのわからない組織に入ってまで《十八名家》に染まりたかったとは思わなかった。


『隊長もさ、すっげーいい人なんだよ! まだ隊員募集してるって言ってたし、お前も一緒にやろうぜ! 《カラス隊》!』


 一緒にやるかやらないかを決めるのは俺じゃなくてその隊長だ。俺は大学に選ばれる為に今日までずっと努力していた、だが──なんの為に、と不意に思った。

 選んだ学部は文学部。文学が好きというわけではないが、経済や法や教育と比べたらそこが一番俺に合う。ただそれだけの理由。ただそれだけの理由で俺はこの四年をどう過ごせばいいのだろう。


「本気か?」


『本気! 俺さぁ、尊と一緒ならめっちゃ楽しいと思うから!』


 それはそうだろう。今までずっと楽しかったのは暁都が馬鹿だったからだ。

 俺と一緒がいい。そう言ってくれた暁都と共に行く方が、意味のない四年よりも価値があるような気がした。

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