12月15日 長谷部紫弦
幼い頃から天才だと言われていた。見て、覚えて、なんでもやることができた俺はいわゆる飽き性だった。
自分の心に当て嵌る何かをずっとずっと探していて、自分が子供であることを自覚して、大人になりたくて町を彷徨う。社会人になればあっという間に大人になれると思っていたが、町を動かしている職業にはすべてあの《十八名家》が関わっていて。それらの職業に憧れてももう遅くて、視界に飛び込んできたのは《カラス隊》だった。
鴉貴輝司が王として君臨している警察の組織の一つらしいが、パトロールをしているように見える鴉色の軍服はあまりにも少なく。ただ眺めていただけの俺の耳に飛び込んできたのは《カラス隊》の求人情報だった。
なんとなく覗いた陽陰警察署のホームページで《カラス隊》の求人情報をなんとか見つけ、職歴も学歴も資格さえも問わない求める人材を知って手を止める。
俺は、中卒だった。陽陰町の外の高校に行けるほどの偏差値はあったが、勉強に飽きてふらふらとしていたどうしようもない子供だった。
求める人材が幅広いとはいえ、しょうもない人間を採用することはないだろう。
受かるわけがない。ただ、少しだけ、藁に縋るような思いで履歴書を送った。そして、今日返送されたのがその結果だった。
面接はしていない。落ちた、ということなのだろうと思って採用の文字に目を見張る。
意味がわからなかった。しょうもない人間でも採用するのかと思って、鴉貴輝司直筆の手紙を読む。そこには「面白いので来てください」というわけのわからない採用理由が書かれていた。
手元のスマホが電話を報せる。知らない番号だ、恐る恐る出ると知らない男の声が聞こえてくる。
『初めまして。私は鴉貴輝司です』
柔らかそうな声色ではないが、取って食うような声色でもない。
『伝えなければならないことはほとんど紙に書いてあるのですが、漏れていたら困るので確認の電話しました。お時間をいただけますか?』
「はい……え、いや、なんで」
『おや。応募したのは貴方だというのに混乱しているのですか?』
「あ、その、面接とか」
『しましたよ? 素性調査とストーキングのみですが』
「?!」
『貴方には才能がなさそうでしたが、賞状と資格の数々があれば大丈夫だろうと判断しました。死なない程度に鍛えたいと思います』
「いやいやいや」
本当に意味がわからない。怖すぎるとさえ思う。
『辞退しますか?』
だが、その問いに頷こうとは思わなかった。