10月31日 骸路成麗夜
四月十九日。陽陰町を大災害が襲ったあの日、俺は家族全員を失った。俺だけが、この世界に残されてしまった。
骸路成家の現頭首になった俺は、俺のものではなかったものをすべて背負って誰もいない世界の玉座に座る。俺のものだったものが一つもない、何が俺を俺たらしめているのかもわからない、そんな中で俺の傍に戻ってきてくれたのは幼馴染みの和夏だった。
和夏は俺の家族が全員死んだその日に姿を消し、首にコルセットをつけて戻ってきた。だからあの日、大災害ではない何かが起きたのだと悟る。
俺は和夏に何も尋ねようとはしなかった。和夏も俺に何も話そうとはしなかった。そんな和夏との日々が俺を何者でもない俺にしてくれた。
「なぁ和夏」
そんな和夏の誕生日にマフラーを送った。まだそんな季節ではないが、完治しているはずなのにコルセットを外そうとしなかった和夏を想って俺が編んだ。
「おい、泣くなよ。これじゃコルセットの代わりにならないのか?」
手編みのマフラーは重いかもしれない。だが、俺のものではない金で和夏に何かを送りたくなかった。
「お前、ずっと俺の傍にいてくれただろ? 安心しろ、もう俺は大丈夫だ。だから、その、好きなヤツと一緒にいろ」
手作りである理由はもう一つ。ずっと俺の傍にいてくれた和夏を、俺の傍から解放しようと思ったのだ。
和夏は幼馴染みだが、俺たちは性別が違う。毎日隣にいてくれて嬉しかったが、和夏には和夏の人生がある。
「え? ワタシが好きなのはレイだよ?」
きょとんとした表情で和夏が言う。そんな表情でそんなことを言われたら、いつか離れ離れになってしまう日に辛くなる。だからここで終わりにしたいのに。手作りを選んで、離れ離れになっても和夏を縛っていたいという俺の醜い欲を暴かないでほしいのに。
「馬鹿かお前。友達とか……そういうの、いるだろ」
「友達?」
涙を流し、和夏は首を左右に振る。コルセットをつけていた時はそんな風に動かせなかった。だが、マフラーならば動かせた。
「ワタシの友達はレイで、大好きな人もレイだけだよ?」
和夏は馬鹿だ。
「……あぁ、わかった。もういい」
離したくない。傍にいてほしい。
「レイは? ワタシのこと大好き?」
いつか離れ離れになる日が来ても、絶対に離したくない。
「……大好きだ」
大好きなんだ。あの日から毎日毎日違う人格の和夏と出逢っても。色んな和夏に振り回されても。それでも、好きだっていう気持ちに変わりはなかった。