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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2016年
131/201

7月11日  鬼寺桜京馬

 恭哉きょうやさんが陽陰おういん警察署の一員になる。それは、七月に入ってから一種の怪談のように陽陰警察署をざわつかせていた。

 確かに、彼は警察官である者と鬼寺桜きじおう家である者の地位を揺らがせた大罪人──鬼寺桜玄石げんこくさんの一人息子。受け入れられない恐ろしい者が来ると思う彼らの思いは理解できる。だが、彼は、私を伴侶に選んでくれた槐樹えんじゅさんの甥でもある。槐樹さんが命を懸けてこの世界に遺してくれた、虎丸とらまる椿つばきの従兄でもある。


 少なくとも私は、彼の血肉と魂をずっと待っていた。


 私は鬼寺桜家の現頭首に選ばれたが、人々が本当に待ち望んでいるのは槐樹さんと同じ血が流れている者で、私ではない。

 一人の警察署として、鬼寺桜家の一員であることと鬼寺桜家の現頭首になることは叶うことのない夢だった。だが、それが叶ってしまった今、《十八名家じゅうはちめいか》が背負うものを知ってしまった今、槐樹さんを失った今、あまりにも虚しくて動くことで精一杯で。槐樹さんの跡を継いだ者としての努力は一切怠るつもりはないが、この座を譲りたくて仕方がなかった。


「貴方が鬼寺桜恭哉さんですか?」


 会ったことはなかった。だが、今目の前にいる青年は鬼寺桜家の特徴を虎丸と同じくらいに受け継いでいる。


「聞かなくても俺が誰かってことくらいはバカでもわかると思うっすよ」


 彼も私のことを知らなかった。


「つーか、あんたこそ誰すか」


 そんな風に尋ねる恐れ知らずの心も鬼寺桜家の特徴の一つだった。


「鬼寺桜家の現頭首、鬼寺桜京馬きょうまです。貴方には虎丸の父と名乗った方が通じますかね」


 瞬間、恭哉さんが怯む。現頭首となった私を警戒し、私が彼に手を出せば何をするかわからない野生動物のような双眸を見せる。そんなところでさえ彼は鬼寺桜家の人間だった。


 私は鬼寺桜の姓を名乗っていても鬼寺桜家の一員にはなれない。


 恭哉さんの母である天梛あまなさんもそうだった。私たちは、鬼寺桜家の血を強く強く受け継いで産まれてきた我が子を我が子とは思えない。鬼寺桜家の血を後世に継ぐ為に利用されたと思ってしまうほどに、私たちには似ていない。

 それでも、天梛さんは誰よりも伴侶から愛されていた。私は槐樹さんと仕事以外で会ったことがほとんどない。羨んでいた天梛さんがあんなことになって、尊敬していた玄石さんがあんなことになって、なのに目の前にいる恭哉さんは折れていない。いや、輝司こうしさんのおかげだろうか。


 私もエリカさんには負けられない。

 誰かが王になるその時まで。

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