表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2016年
130/201

6月21日  水無瀬陸

 警察官になったら、人を救うことができる。森に足を踏み入れてこの世界に戻ってこなかった最低な両親に遺された俺のような小さな子を、たくさん救うことができる。

 それは建前だったのかもしれない。警察学校に入って同期たちの正義感溢れる夢を聞かされる度に、そうだと思った正義感が萎んでいく。自分が間違った世界に迷い込んでしまったのだと思って苦しくなる。


 そんな俺を救っていたのは、正義感を欠片も持ち合わせていない同期たち。多くの同期から嫌われている彼らが自分を貫き通す度に、俺は俺のままでいいのだと思えた。


 そして、自分だけが空っぽなのだと自覚した。


 俺たちが通う警察学校は陽陰おういん町から最も近い警察学校で、《十八名家じゅうはちめいか》の鬼寺桜きじおう家と鴉貴からすぎ家の誰かが時々訪れては講演を行うことがある。

 彼らを見る度に、陽陰町出身である俺は彼らの部下になるのだと思ったが、彼らの部下として生きている自分を想像することができなかった。


 俺が進む道はこの道ではないのだろう。だからと言って今さら別の道に行くのは面倒だ。

 辞めた同期たちは数え切れない。生き残っている時点で適性はあるのだから、この道の先で生きていくしかない。


 ──退屈だ。


 瞬間に壇上に立った青年の服装は、警察官の服装ではなかった。

 同期たちがざわめく。俺は食い入るように鴉色の軍服を見つめる。


 今日の講演者は鴉貴輝司こうし。俺は慌てて事前に配布された講演者のプロフィールを見、息を止める。


 先月陽陰警察署の頂点となった鴉貴エリカの息子。所属は──《カラス隊》?


 鴉貴さんは、俺たちの動揺に気づいていながら講演を始める。内容は決して薄くないが、陽陰町を守るという他の講演者とあまり変わらないことばかり話していてとても不気味だ。


「陽陰町において、警察官は町を守る者にも人を救う者にもなれません。真に町と人々を守る者は我々《十八名家》です」


 断言した鴉貴さんに傷つけられながら、それでも同意してしまうのは陽陰町出身の正義感溢れる同期たち。


「四月、陽陰町を襲った天災で犠牲となったのは二百人以上の《十八名家》──一般の出である警察官から犠牲者は出ていません。《十八名家》の前では貴方たちは無力、陽陰町で警察官になるということは、賞賛も出世もない世界で飼い殺されるということ。《カラス隊》は、そんな世界に抗う者を歓迎します」


 抗う気はなかったが、生半可な気持ちで来る者は殺すという鴉貴さんの視線はとてつもなく魅力的だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ