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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
1853年
13/201

9月23日  ゲンブ

 人間のような、生きている者の声が聞こえた。風が吹く音。葉と葉が触れるような音。それくらいはわかっていても、わからないような音もある。

 うっすらと目を開けた。光が眩しくて瞼を閉じ、動かせる手で拳を握る。


「ゲンブ。何を怖がっているんだ」


「臆病な式神しきがみだな。お前、本当にこの式神でいいのか?」


「いいも何も、ゲンブは俺の式神だ。代わりなんていない大切な戦友になるんだからな」


「ま、そうだな」


 馬鹿にされているような気がして目を開けた。光があまりにも眩しくて目を細め、自分を囲む陰陽師おんみょうじを見回した。


「ゲンブ」


 声の主で視線を止める。


「お前の名はゲンブだ。初めまして」


「……初め、まして」


「それで、俺がお前の主だ。お前は間宮まみや家の式神で、俺が死んでもこの家に仕え続けないといけない。いいな?」


「わかってる」


 この世界に召喚されたばかりなのに、何故だか自分の役目については熟知していた。血に、契約が染みついていた。


「これから間宮家の式神として精進しろよ。おいスザク、彼がゲンブだ。面倒を見てやってくれ」


 花のような匂いがした。部屋の隅に立っていたスザクの柔らかな微笑みだけで、今まで荒れていた心が和ぐ。


「ゲンブ、初めまして。私はスザクです」


 桃色の髪がスザクの動きでゆらゆらと揺れた。近づいてくるスザクを俺は何故か拒めなかった。


「私たちの家に案内します。お手を」


 無意識のうちに手を出していた。スザクは片膝をついていた俺を引き上げて、一瞬にして周りの世界を森に変える。


「うわっ?!」


「うふふっ。驚きました? 大丈夫です、貴方にもできることですから」


「わっ、笑うな!」


「あっ、ごめんなさい……!」


 さっきまで笑っていたのに眉を下げた。表情がころころと変わるのに、俺よりも強いという雰囲気を感じる。だから、逆らえない。


「ゲンブ、こちらの家が私たちの家です。ここは間宮家の式神が全員暮らしている家なので、私たち以外にも……」


「スザク、お帰りなさい」


「あら、セイリュウ。ただ今帰りました。こちらの方はゲンブです」


「貴方がゲン­­ブですか。初めまして、ゲンブ」


 間宮家を背景にして、スザクとセイリュウが仲良く並ぶ。桃色のスザクと、青色のセイリュウ。それを見ていると妙に苛々してセイリュウの体を思わず蹴った。


「いった?! 何するんですかゲンブ!」


「別に。俺はお前が嫌いみたいだ」


 家へと歩く。スザクは、そんな俺についてきた。それだけで心が和らいだのは何故だろう。


 その答えを知る者はいない。

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