4月30日 ククリ
雅臣様が朝日様と結希様から離れて得たのは、六人の少年少女。雅臣様たちと同じ陰陽師だ。
私は彼らの家の式神の名を雅臣様に告げ、雅臣様は中庭にいる六人へと視線を移す。
六人は、遊んでいるわけではなかった。親や兄弟を亡くしたばかりの子供たちは中庭で野菜を栽培しようとしていたのだ。
彼らは、この地できちんと生きようとしていた。雅臣様は、彼らに応えようとしていた。
風が吹く。私たち式神の家のような古い家の匂いがして、式神の家と大差ない日本家屋を観察する。ここにはまだ、私物らしい私物はなかった。彼らの生活はこれから始まるのだと物語っていて──妖の気配が私を舐めた。
「──ッ!」
泣きじゃくったのはモモ様だ。五人はモモ様が泣いた理由がわからず、困ったように雅臣様に助けを求めて身を強ばらせる。
私と雅臣様の目の前に立っていたのは、人間の女だった。
長い、茶色の髪。天色の双眸は雅臣様だけを映しており、人ならざる者の気配を滲ませて一歩前に出る。
私は雅臣様を守る為に前に出た。女はそれでも私のことを見なかった。
「……頼さん?」
雅臣様が尋ねる。女は、阿狐家の現頭首で雅臣様の高校の先輩──阿狐頼だった。
「ど、どうしたんですか」
立っている頼さんに合わせて雅臣様も立ち上がる。
「話があるんだよ、雅臣に」
「……は、はぁ。ククリ、頼さんにお茶を」
「…………」
「ククリ」
離れたくなかったけれど、雅臣様の命令に従う。阿狐頼は半分妖怪だ。人ならざる者の気配がしてもおかしくないのに、何故こんなにも胸が騒ぐのだろう。
すぐに戻って向かい合わせになって座っている二人の前にお茶を出す。阿狐頼が雅臣様に切り出した話は、妖怪の話だった。
「妖怪を助けたい、お前はそう思っているんだろう?」
何もかもを見透かした瞳。嘘を吐くことも逃げることもできなさそうな、圧。それでも雅臣様は一切怯まず、「はい」と答える。
「──なら、私に力を貸せ」
言外に込められていたのは、拒否権はないという雅臣様の想いを無視したものだった。
現頭首で先輩とはいえ、雅臣様には拒否権がある。阿狐頼を拒める意思がある。なのに──
「はい」
──雅臣様は即答した。
「雅臣様ッ!」
私はいいと思っていない。だから雅臣様も少なからずそう思っているはずだ、そう願ったけれど、怯え切った表情で私たちを見ている六人に気づいて思考が止まった。
人質に、取られている。
それを理解した時には、多分、何もかもが遅かった。