4月26日 三善花
みんなもみんなと違うけれど、わたしはみんな以上に違う。
一人だけ日本人の顔を持っているわたしは、どれほどみんなから愛されてもずっとそのことを気にしていた。
「ハナの顔を見てると、落ち着く」
そんなある日、古城にやって来たグロリアの〝クローン人間〟のステラがわたしに向かってそう言った。
年が近い友達がいなかったわたしにとってステラという存在はとても嬉しい存在で、共に紅茶を飲んでいる時に不意に告げられたわたしは紅茶を飲む手を止めた。
「落ち着く?」
「うん。ここにいる人たちは、みんな見慣れない顔だから……あ、ハナがサルアキの〝クローン人間〟だからって意味じゃなくて、日本人って意味で」
わたしが傷ついたと思ったのか慌てて言い直したステラは、そっとわたしの表情を見つめる。
怒っているわけではない。悲しいわけでもない。みんなと違うこの顔立ちが嫌だとずっと思っていたから、嬉しくて──ステラはわたしに嬉しいをたくさん与えてくれる人なのだと思った。
「ありがとう」
頬を綻ばせる。
「主〜!」
尻尾を振っているかのように楽しそうにテラスに現れたイヌマルも、わたしの嬉しいの一つだった。
ステラはグロリアの〝クローン人間〟だから、ステラの顔立ちはみんなと同じ。そんなステラの式神のイヌマルは、わたしと同じ日本人の顔立ちだった。わたしと唯一同じなのがイヌマルだった。
「見て! クッキー作った!」
テーブルに皿を置いたイヌマルは、しゃがんでわたしたちと同じ目線になる。わたしと同じ黄色にも金色にも見えるその双眸を輝かせて、わたしたちが食べるその時を今か今かと待っている。
「いただきます」
ステラが祈るように手と手を合わせた。イギリスには〝いただきます〟や〝ごちそうさま〟と同じ意味を持つ言葉はない。それはわたしがずっと知らなかった言葉。ステラとイヌマルに教えてもらった故郷の言葉だ。
「いただきます」
わたしも手と手を合わせた。クッキーを頬張るステラは「美味しい」と笑顔を見せて、イヌマルはそれ以上の笑顔を見せる。
この二人は美しい主従だ。見ていると幸せになれて、羨ましく思えて、欲しくなる。
「花も! 食べて!」
そんなわたしの気持ちを知らないイヌマルは、待てと言われた犬のようで。食べたクッキーは知らない味がしたけれど、美味しかった。
「美味しい」
また頬を綻ばせる。イヌマルは、ステラに見せた表情と同じ表情をわたしに見せた。
それも、嬉しいの一つだった。