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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2016年
125/201

4月26日  結城涙

 あの日から、一週間が経過した。《十八名家じゅうはちめいか》の都合で町民の日常を止めることはできず、始まってしまった日常の中で──動き出せない《十八名家》の人間は大勢いた。その中の一人になることは、できなかった。


 俺は結城ゆうき家の人間。千羽せんばが亡くなった今、紅葉くれはを支えることができる唯一の人間。陰陽師おんみょうじの王に近しい人間にもなってしまった。

 結城家の人間に産まれて良かったと思った日は一度もない。桐也きりやと出逢えたことだけが唯一の幸福だったかもしれない。


『協力し続けて、男でも半妖はんようになることができたら、俺はお前の隣で戦う!』


 そんな桐也も亡くなって、五道ごどうさんも亡くなって、施設が新しく生まれ変わりもう二度と関わることができなくなってしまった今、想うのは生き残ってくれた義理の妹たちだった。


「るいるい」


 《ハリボテの家》に行き、驚くアリアとアイラに頭を下げる。


「何しとんねん、るい……!」


 名乗る名がなかった人──あの施設を知っている数少ない人、愁晴しゅうせいさんも驚いていた。


「謝罪です」


 同じく謝りたかったいぬいはどこかに消えてしまった。だから、アリアとアイラにだけは伝えたい。


「あっち行こか」


 三人が所属している《グレン隊》の前では言えないことだった。愁晴さんに連れられて、雑居ビル地区の路地裏に移動する。アリアとアイラは当たり前だが悲しそうな目をしていた。


「五道さんに力を貸したことは……」


 それは、桐也の意思で桐也の夢だった。だから俺は、それを否定することができない。


「……正義だと、認識です」


 アリアと乾とアイラには──そして、多分同じように犠牲者だった愁晴さんには申し訳ないと思う。

 アリアと乾とアイラの力で救えた命があることは、結城家の人間として聞かされていた。なのに、誇らしく思うことはなかった。


「ですが、俺は、皆の犠牲の上で命が救えたこと……それは、とても、とても」


 上手く言うことができない。どう言っても三人のことを傷つけてしまうような気がした。

 唾を飲み込む。口を開いて黙ったままのアリアを見つめる。


「俺は、皆を犠牲にしなくても皆を救える道があったはずだと推測です。そんな陰陽師になるべきだったと……自分自身に失望です」


 桐也にあんなことを言わせたのは、自分自身が弱かったから。

 アリアたちを犠牲にしたのは、陰陽師たちが弱かったから。


「謝らないで」


 涙を流す俺の頬をアリアが撫でる。


「泣かないで……ニコニコって笑おうよ」


 笑う彼女は、俺なんかよりも強かった。

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