表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2016年
124/201

4月25日  泡魚飛奏雨

 現頭首の伯母様が死んで、父様が現頭首になって、従妹の和穂かずほが泣いた。

 美しい顔と声を持つ泡魚飛ほうぎょうひ家の人間は昔から人魚の一族のようだと言われており、三年前に成人してから本当に人魚の一族だと知ったボクは──美しい顔と声を持って生まれることができなかったボクに絶望して引きこもった。


 そんなボクを引きずり出した百鬼夜行では、何もせずに逃げ続けて。たくさんの《十八名家じゅうはちめいか》の人間が死んだと知った時、ボクはまたボクに絶望した。


 《十八名家》の人間の中で誰よりも生きる価値がなかったのはボクだ。

 泡魚飛家の人間の中で最も醜いボクが伯母様を守って死ぬべきだった。


 死ななければ。そうしてみんなに謝らなければ。


 そんなボクのゴミだらけの部屋に入ってきたのは、父様と──白院はくいん家の現頭首だった。


「貴方が奏雨かなめですね」


 肉で消えた顎を引く。


「今日から貴方を養護施設の施設長に任命します。今すぐここを出て施設に向かいなさい」


 万緑ばんりょくさんは何を言っているのだろう。

 呆然と万緑さんを見上げるボクに、父様は「行ってくれ」と懇願する。父様は泡魚飛家の頭首になったのに。ボクは泡魚飛家の人間なのに、何故白院家の人間の言うことを聞かなければならないのだろう。


 それくらい父様には王としての器がなくて、ボクには泡魚飛家の人間だと名乗る資格がなかった。


 荷物を纏める間もなく追い出され、白院家の車に押し込まれる。連行された施設は町の端の森の中に建っており、真新しいそれの前に小さな男の子が立っていた。


「……まこ?」


 三年前に《十八名家》の会で見かけた男の子に似ている男の子は、「奏雨お兄さん!」とボクを呼ぶ。確かに真だ。でもなんで、真がここに。


「良かった、奏雨お兄さんが新しい施設長で……」


 真はそう言って泣き出したが、何も良くない。ここに来るまでにこうなった経緯を聞かされたが、ここは《十八名家》の嫌な部分が詰まった施設なのだ。


 綿之瀬わたのせ家が子供たちを保護すると言い、子供たちで実験を繰り返してた施設。

 その施設長が昨日死んで、誰を次の施設長にさせるか話し合いが行われ、ボクのような《十八名家》の汚点の名が上がるほどに──この施設は最悪なのだ。


 でも、子供たちは悪くない。子供たちと接する前の施設長やボクの評判が悪いせいで、子供たちまで嫌なもの扱いされてしまうのは我慢ならない。

 だからと言って逆らえない。ボクで良かったと言って泣く真を泣かせないように、懸命に生きるしか道がなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ