4月25日 骸路成愛来
「…………アイ、ラ?」
わたしの名前を呼んだのは、わたしの従兄のレイヤだった。
生まれた時から骸路成家の本家で暮らし、骸路成家の現頭首になった、世界で唯一の骸路成家の人。世界で唯一のわたしのたった一人の家族。
頷くと、「アイラッ!」と叫んだレイヤがわたしを抱き締めた。とても痛い。苦しいけれど、わたしも同じくらいレイヤを強く抱き締める。
「……どうして、アイラが生きているんですか? アイラは、叔母さんと叔父さんと一緒に事故で死んだんですよね……?」
「ちゃうよ」
「じゃあ、なんだったんですか……。どうして叔母さんたちが死んで、アイラも死んだってことになったんですか……」
「アイラの母親がイギリス人と結婚したんは知っとるやろ? 分家とはいえ他所の国の人間の血が混ざるのを好まんかったんは、骸路成家やない。《十八名家》やったんや。九年前の今日、四月二十五日に結婚した二人が宿した生命の誕生でさえ、当然祝福されるべきものやなかったんよ」
わたしはこの世界にいてはいけない人。けれど、わたしがいなくなったらレイヤは本当に独りぼっちになる。わたしはレイヤを独りにしたくない。わたしも独りになりたくない。
「──アイラを俺らの《グレン隊》で預からせてほしいんよ」
シュウセイの提案はわたしとレイヤを引き離すものだったけれど、シュウセイはレイヤのことも見捨てなかった。手を伸ばしてレイヤのことも守ろうとしてくれた。
生まれたばかりのわたしはたくさんの人に嫌われてたけれど、愛してくれる人はたくさんいる。
生きてて良かった。これからも生きたい。
もっとレイヤといたかったけれど、サクナの家族にも同じ話をする為にわたしたちは骸路成家の外に出る。バス停を目指すシュウセイについて行くと、レイヤと──レイヤの友達のワカナに呼び止められた。
「どないしたん、二人とも」
「あのっ、アイラに渡すものがあって!」
わたしに? なんだろう。
「アイラ、これ、アランさん……アイラのお父さんの時計なんだ。母様が捨てずに残してて……っ」
「え」
レイヤに腕を出してと言われて、手首に時計の針が止まってしまった時計をつけてもらう。
「いいの?」
「アイラだから持っててほしいんだ。母様も、叔母さんとアランさんを忘れない為に持ってたはずだから」
それは、わたしの手首には大きすぎて合わなかった。けれど、いつか、これに相応しい大人になりたい。
大好きな人から愛される大人になりたかった。