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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2016年
122/201

4月25日  小白鳥冬乃

「え……私、がですか?」


 それが、話を聞いた直後の私の反応だった。


 間宮結希まみやゆうきくんという男の子が百鬼夜行を終わらせたこと。その子が記憶と自我を失くしたこと。その子の治療をしろと言ったのが、妖目おうま家の現頭首のそうさんだった。


 私は医者のたまご。医学部に通っている小白鳥こしらとり家の本家の人間だ。


 お母様や一族中の人間から反対されて、それでもこの道に来て、医学を学んで──なのに医者を家業としている妖目家の現頭首からそんなことを言われるとは思っていなくて、驚く。認められたのだろうか。いや、そんなことはないはず。


「妖目家の人間では駄目なのです」


 双さんが淡々とそう返した。


涼凪すずなからの許可もあります。貴方が間宮結希を診なさい」


「待ってください、私はまだ医者じゃな……」


「二度も言わせないでください。妖目家の人間ではない《十八名家》の医療関係者が必要なのです。その条件に当て嵌っているのは、冬乃ふゆの、貴方だけなのですよ」


「…………」


「貴方が医者になることを認めます。この町の英雄である間宮結希を託された以上、妖目家の人間に負けないほどの立派な医者になりなさい」


「…………はい」


 認められたかったけれど、こんな風に認められることを望んでいたわけではない。もっと色んな人から祝福されたかったけれど、百鬼夜行が終わった今、誰もそんな気持ちにはなれなかった。


 幸か不幸か妖目家の医者は減ってしまったけれど、百鬼夜行に関わったほとんどの人が亡くなってしまったから、負傷者に人員を割かれることはなかった。

 人が不足してしまったのはどこの家も同じで、今、すべての家が混乱している。現頭首が亡くなった家はもっと悲惨な目に遭っているらしく、私のような現頭首の実子である次期頭首たちが涙を流していることを私は知っていた。


 だから私は幸せな人間なのだ。申し訳なくなってしまうくらいに恵まれている。


 医学部の棟を出て妖目総合病院に向かった。結希くんは、結希くんよりも幼い少女が押している車椅子に座っていた。


「…………」


 俯いて、何も瞳に映していないような物言わぬ何かになってしまったような男の子を見るのは辛い。胸が鷲掴みにされてしまうほどに結希くんの姿は痛々しかった。手を伸ばして頬を撫でてあげたいと思うほどに、悲しかった。


 視線を窓の外に移すと散ったはずの桜が満開に咲き誇っている。あれを咲かせたのは結希くんだ。私は結希くんを救いたい。


 結希くんはみんなの〝希望〟だから。

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