4月15日 因幡安光
ようやく因幡の地にも情報が来た。八条の地が全壊したと。そして、国成を含んだ九割の罪なき人々が亡くなったと。
火車が言っていたことは、本当だった。
国成に会ったことは一度もない。それでも、奴の刀剣ならば見たことがある。東の国成、西の安光。そう言われるほどにおれたちの刀剣は全国各地で有名だった。
おれは国成の刀剣に惚れていたし、向こうもおれの刀剣を褒めていたと聞く。互いに寿命が近づいているが、まだ刀剣を見せ合うことができると思っていたのに。
「半妖……? げほっ、それはなんだ」
帰郷した陰陽師の友に尋ねる。
「妖と人との間に生まれた忌み子だ。なのに信じられるか? 結城星明という陰陽師がそいつらと約束を交わしたんだぞ?」
「ごほっ、ごほっ、何をそんなに怒っているんだ。どういう約束を交わしたんだ?」
友が酒を口に含んだ。帰ってこなかった友も大勢いたのに、平然としている友の方が信じられなかった。
『この地に再び百鬼夜行が引き起こされる時。その時は必ず、互いが互いの力になる』
そうして告げられた約束は、決して悪しきものではなかった。
「そもそも百鬼夜行が終わったのは、そいつらが妖を潰したからだろう。終わって当然、人として生きるのなら潰して当然じゃないか」
「人として生きると、げほっ、彼らがそう言ったのか?」
「姓を与えられたんだぞ? 図々しいにもほどがある、おまえでさえ持たされていないものではないか」
「確かにそうだが、おれは因幡安光でいい」
「なんだと? おまえは半妖よりも劣っているということになるんだぞ? 本当にそれでいいのか?」
「……いいさ。げほっ、その半妖たちは、おれよりも優れているんだから」
「何を言っているんだ安光。おまえ、頭がおかしくなったのか?」
「げほっげほっ。なっていない。おまえこそ、もっと妖に寄り添ったらどうだ」
おれの刀が抜刀された。友は、いや、最早友とは思えない陰陽師は妖に寄り添ったおれを妖として見ているような目をしていた。
「切りたければ、切れ。げほっ、どうせもう、長くはない」
「老体を切る趣味はない。妖に殺されて死んでしまえ」
去っていく陰陽師を見送って、現れた火車に笑みを返す。
「お迎え、か」
国成が死んでしまったこの世界で、長く生きている意味はない。悪行を積み重ねた覚えはないが、おれは妖を受け入れた。