4月21日 ナナギ
百鬼夜行から二日が経って、ようやく事件の全体が見えてくる。生き残った者。亡くなった者。行方不明となった者。被害が出た建物。それらを眺め、ヤクモと共にそれぞれの主へと視線を移す。
百鬼夜行を終わらせた間宮結希殿が発見された町役場の屋上に。我が主の琉帆殿と、ヤクモの主の琴良殿と、お二人の一つ年上の──鴉貴家の人間が立っていた。
「どういうことですか、輝司さん」
琴良殿が声を震わせて尋ねる。琴良殿は心身共に疲弊しており、そんな琴良殿を主殿がずっと支えていた。
「そのままの意味です。私は、このような悲劇をもう二度と繰り返したくない──だから、常日頃から妖怪と戦う組織が必要だと判断しました。戦って、力をつけ、いつかの悲劇を防ぐことができるなら、私はこのまま進みたい。その時傍にいてくれる人間は、貴方たちがいい。貴方たちの力を無力な私に貸してください」
鴉貴家は《十八名家》だ。千羽殿や涙殿と同じくらいに偉い方だ。そんな方が我が主に頭を下げている。町の未来を想って、願っている。
ただの式神である俺よりもお二人の方がわかっているだろう。この方は本気だと。本気で妖怪と戦おうとしていると。
「俺でいいなら」
主殿が、琴良殿を支えている手に力を込めた。
「俺でいいなら、俺も、未来の為に戦いたいです」
胸の奥から湧き上がってくるこの感情には、どのような名前がつくのだろう。
生まれた時から陰陽師で、物心ついた時から妖怪が見えていて、そういうものだからとずっと妖怪と戦って。失って初めて、自分たちの宿命の意味を知る。
「俺もッ!」
腹から叫ぶ琴良殿は、顔を上げて橙色に染まった空に吠える。
「強くなりたい! あの子たちが笑って暮らせる世界にしたい!」
涙は枯れない。琴良殿は多くの者を失ってもなお立ち上がれる強い人で、そんな琴良殿とヤクモに、俺たちはずっと救われていた。
初めて会ったあの日から琴良殿に引かれていた手を引いて、主殿は輝司殿の目の前まで向かう。
「感謝します」
顔には出さなかったが、輝司殿が安堵の声を出す。
「私たち鴉貴家は跡取りを秘匿した罪で全《十八名家》から責め立てられていますが、その覚悟はもうできていますね?」
「うわ、何それそんなの聞いてない。詐欺だぁ」
「まぁ、予想はしていましたが」
「それはそれ。これはこれ。俺たちの意思は変わりませんよ。関係ないじゃないですか」
我が主たちは強い。英雄でなくても、我が主たちは自慢の主だった。