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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2016年
113/201

4月21日  ナナギ

 百鬼夜行から二日が経って、ようやく事件の全体が見えてくる。生き残った者。亡くなった者。行方不明となった者。被害が出た建物。それらを眺め、ヤクモと共にそれぞれの主へと視線を移す。


 百鬼夜行を終わらせた間宮結希まみやゆうき殿が発見された町役場の屋上に。我が主の琉帆りゅうほ殿と、ヤクモの主の琴良ことら殿と、お二人の一つ年上の──鴉貴からすぎ家の人間が立っていた。


「どういうことですか、輝司こうしさん」


 琴良殿が声を震わせて尋ねる。琴良殿は心身共に疲弊しており、そんな琴良殿を主殿がずっと支えていた。


「そのままの意味です。私は、このような悲劇をもう二度と繰り返したくない──だから、常日頃から妖怪と戦う組織が必要だと判断しました。戦って、力をつけ、いつかの悲劇を防ぐことができるなら、私はこのまま進みたい。その時傍にいてくれる人間は、貴方たちがいい。貴方たちの力を無力な私に貸してください」


 鴉貴家は《十八名家じゅうはちめいか》だ。千羽せんば殿やるい殿と同じくらいに偉い方だ。そんな方が我が主に頭を下げている。町の未来を想って、願っている。

 ただの式神しきがみである俺よりもお二人の方がわかっているだろう。この方は本気だと。本気で妖怪と戦おうとしていると。


「俺でいいなら」


 主殿が、琴良殿を支えている手に力を込めた。


「俺でいいなら、俺も、未来の為に戦いたいです」


 胸の奥から湧き上がってくるこの感情には、どのような名前がつくのだろう。

 生まれた時から陰陽師おんみょうじで、物心ついた時から妖怪が見えていて、そういうものだからとずっと妖怪と戦って。失って初めて、自分たちの宿命の意味を知る。


「俺もッ!」


 腹から叫ぶ琴良殿は、顔を上げて橙色に染まった空に吠える。


「強くなりたい! あの子たちが笑って暮らせる世界にしたい!」


 涙は枯れない。琴良殿は多くの者を失ってもなお立ち上がれる強い人で、そんな琴良殿とヤクモに、俺たちはずっと救われていた。


 初めて会ったあの日から琴良殿に引かれていた手を引いて、主殿は輝司殿の目の前まで向かう。


「感謝します」


 顔には出さなかったが、輝司殿が安堵の声を出す。


「私たち鴉貴家は跡取りを秘匿した罪で全《十八名家》から責め立てられていますが、その覚悟はもうできていますね?」


「うわ、何それそんなの聞いてない。詐欺だぁ」


「まぁ、予想はしていましたが」


「それはそれ。これはこれ。俺たちの意思は変わりませんよ。関係ないじゃないですか」


 我が主たちは強い。英雄でなくても、我が主たちは自慢の主だった。

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