4月20日 鴉貴エリカ
百鬼夜行から一日が経った。鴉貴家が出してしまった死者の中で亡くなってはならなかった者はいない。ほとんどが分家だったから、大丈夫。鴉貴家の血は途絶えない。現頭首だった姉のエリスは亡くなってはならない者だったかもしれないけれど、私は、いなくなって良かったと思っていた。
姉は弱い。何故姉が半妖の力を持って生まれたのかと神に問い詰めたくなるくらいに弱い。弱いから、八年も実の娘を本家の蔵に幽閉していた。私はエリスが嫌いだったから実家には帰らなかったし、二人目を産んだことも知らなかったけれど、知らなかったと言って許されるような立場ではない。
鴉貴家の現頭首を継いだ者として、半妖のエリスが産んだ半妖の火影の存在を秘匿していたことを公の場で謝罪する。
悔しそうに顔を歪めた輝司には申し訳ないと思っている。私は本当に悪くない。悪いのは馬鹿な姉のエリス。私じゃないけどそう言うことはできない。
そんな私の思いを汲んで黙っている輝司と、黙らなかった蒼生が鴉貴家の未来だった。何を考えているのかわからない顔で結城朝羽の傍から離れなかった火影が本物の王だった。
私以上に《十八名家》の現頭首たちに詫びる蒼生は、王を支える者の器を持っていた。
「申し訳ございませんでした」
現頭首たちがいなくなった《十八名家》の本部の宴会場で、蒼生が私に頭を下げる。いや、土下座だ。心から私に詫びている。
「顔を上げなさい。不愉快よ」
本当に不愉快だった。高貴な彼が頭を下げていることが。愚かな姉の代わりに詫びていることが。そんな風に簡単に謝ってしまうところが、姉に似ていて──心が掻き乱される。
エリスのことは嫌いだった。エリスは現頭首に向いていないから、早く私に代わってほしかった。けれど、こんな今を望んでいたわけではない。これから先のことを考えると憂鬱になる。
「火影はどこ」
「結城朝羽の傍にいます」
答えたのは最愛の子の輝司だったけれど、溜息が漏れた。
彼女は結城家の現頭首の妻。関係ないのに娘を抱いてこの場にきた彼女の何に惹かれてずっと引っついているのだろう。彼女は《十八名家》出身ではない。私は彼女のことを知らない。
でも、鴉貴家にも百妖家にも帰れない火影の帰る場所になってくれるなら。
「結城朝羽は、なんて?」
「許されるなら、この手を取りたいと」
今度こそ、火影を守る母になってくれるなら。
「託しましょう」
先の見えない鴉貴家にも希望があると。そう思えた。