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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2016年
111/201

4月20日  芦屋春

 百鬼夜行が始まった。

 父さんと母さんが僕たちを守る為に手を引いて地下に逃げようとしてくれたけど、やっぱり二人も──そして僕も紫苑しおん陰陽師おんみょうじだから、一般人に紛れて逃げることはできなかった。


 陰陽師だから、みんなのことを守らなきゃいけないと思って足を止めた。


 父さんと母さんは、それでも変わらずに逃げなさいと言った。僕と紫苑は、二人で手を繋いで逃げようと思わなかった。父さんと母さんをおいて逃げることはできなかった。

 けれども父さんと母さんが散る。その姿を見てすぐに思う。紫苑を散らせることはできないと。僕は決意を曲げて紫苑の手を引き、ただひたすらに逃げていた。紫苑は怒っていたけれど、紫苑を亡くすくらいなら怒られた方が何倍も良かった。


 百鬼夜行が終わって、陰陽師たちが仲間の遺体を運んでいって、父さんと母さんのところに戻ると二人はいなくて、陰陽師たちが集まっているところには──勘当された僕たちが行くことはできなくて、荒れた土地で途方に暮れる。


 そんな時、僕たちは陰陽師に見つかった。


「大丈夫?」


 そんな風に声をかけてくれた。

 僕たちが勘当された末森すえもりの人間だとわかったら、この人は絶対に僕たちのことを見捨てるだろう。そう思って名乗れなかったけど、紫苑が名乗った。その人は僕たちのことを知っていたけど、見捨てなかった。


「わかった。町役場には行かない。二人が良ければ俺の家に行こう」


 僕たちの手を取ってくれた。僕たちは引き裂かれることなく、その人の──雅臣まさおみさんの家のアパートに辿り着く。

 雅臣さんの家はもの凄く狭かった。だって、中には既に女の子が二人いたから。僕たちがこの中に入ったら、この部屋は狭くなる。


「この子が美歩みほで、この子が真菊まぎく。この子が兄のはるで、この子が弟の紫苑だよ」


 美歩も真菊も、紫苑のような目をしていた。それは傷ついた人の目だった。


「同じ……」


 声を漏らした美歩が見ていたのは僕たちで、僕は紫苑の手を握り直す。


「双子だよ」


 雅臣さんが説明すると、紫苑は僕の手を強く握り締めた。


「……すごい」


 双子は珍しい。一人じゃなくて二人だから、みんなの邪魔になってしまう。

 傷ついた目をしている女の子たちの邪魔になりたくなくて、僕だけでも家から出た方がいいような気がして、「引っ越そうか」と笑った雅臣さんの目を見つめた。


 追い出そうとしなかった。受け入れてくれた。


 僕の願いが叶うなら、ずっとここにいたい。生きていて良かったと涙が溢れる。

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