4月20日 百妖月夜
たいへんなことが起きているってことはわかってた。わかってたけど、なんでお姉ちゃんたちがそばにいてくれなかったのかはわかんなかった。あいねぇとつばねぇしかいないことが、つきはとっても怖かった。
『あいねぇ、しろねぇは……?』
『いない』
『なんで……?』
『戦ってるから』
そう言ったあいねぇが泣いていたから、もっともっと怖くて。まっしろい部屋の中でお姉ちゃんたちが血を流して寝ているところを見て、もっともっと怖くなった。
「…………おね、ちゃ?」
言葉が出てこない。どうして? お姉ちゃんたちがケガしてる。だれか助けて。お姉ちゃんたちが死んじゃうよ。いやだよ。そんなのいやだよ。なのになんでだれも助けてくれないの?
「あぁあぁああああああああっ! うわぁああぁあぁああああああん!」
泣いたのは、つきの妹のささちゃんだった。つきも泣きそうだったけど、ささちゃんがたくさん泣いたから泣けなかった。
「さ、ささちゃ」
どうすればいいんだろう。ささちゃん泣きやんで。笑っていて。ここから出たらいいのかなぁ。
ささちゃんと手をつないでお外に出る。まっしろい廊下を歩いて、エレベーターに乗って、いろんなところに行ったらささちゃんは泣き止んでくれるって思った。けど、ささちゃんはまだ泣いていた。
ささちゃんはそんなに強くない。
つきがささちゃんのことを守らなきゃ。つきはささちゃんのお姉ちゃんだから。つきがささちゃんをお姉ちゃんたちのかわりに守らなきゃ。
『月夜ー! 幸茶羽ー! どこに行ったのー!』
遠くからあいねぇの声が聞こえてきた。
『月夜ー! 幸茶羽ー! 月夜ー! 幸茶羽ー!』
『つきちゃーん! ささちゃーん!』
つばねぇとはるねぇの声もする。けど、ケガしたお姉ちゃんたちの声は聞こえてこなかった。
もう二度と、お姉ちゃんたちに会えないのかな。
そんなのいやだ。やだよ。なんで。会いたいよ。お姉ちゃん、そばにいて。
つきも泣いた。そしたらささちゃんがびっくりした顔でつきを見た。ささちゃんが泣いてないのに、なんでつきが泣いちゃったんだろう。
「あ! いた! 愛姉いたー!」
「え、どこ?!」
「木のとこー!」
「あっ! こら! 月夜! 幸茶羽! なんで勝手に出てったの! 心配したでしょバカ!」
なんでかわかんないけど、あいねぇにいっぱい怒られた。つばねぇとはるねぇは、つきとささちゃんみたいにたくさん泣いていた。
なんでかな。なんでこんなことになったのかな。
わかんないよ。すごく怖いよ。