3月14日 先代ククリ
妖怪が騒いでいると、口を揃えて言った者たちの傍に私はいた。
百鬼夜行があって、陰陽師様と梅姫が力を合わせたことにより終わらせることができたのに、妖怪は何故か全滅しなくて。百鬼夜行よりも彼らが大きく騒いでいることが、芦屋家の陰陽師様たちの恐怖心を煽っていた。
芦屋家に産まれた者は皆、妖怪の声が聞こえている。そんな芦屋家特有の苦しみから開放されると思っていた陰陽師様たちの表情は、絶望に染まり切っていて。助けてあげたいと思うのに、私は何もできなかった。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ──」
ぶつぶつと呟きながら部屋の中に閉じこもっている芦屋家の陰陽師様たちを見ていることしかできない自分が嫌だった。彼らの式神たちも主に引きずられて笑顔を見せることがなくなってしまい、芦屋家全体に希望が消えたことを受け入れることが嫌だった。
私の主は芦屋清行様。彼は百鬼夜行で亡くなって、私は彼を失ったことに対する痛みに耐えて、これから新しい主と共に──そう思っていたのに芦屋家の陰陽師様たちも式神たちも立ち上がれそうには見えない。動けるのは主を亡くした私のみだった。
私たち式神には妖怪の声が聞こえない。どうすればいいのかはわからないけれど、芦屋家を飛び出して蹂躙された八条の地を走る。
「星明殿!」
彼ならば何かわかるかもしれない。結城家に上がり、随分と久しぶりに会ったような気がする星明殿を探し、彼が十を超える赤子に囲まれているのを見た。傍には梅姫がいて、晴れない表情のまま赤子をあやしている。その赤子の正体に気づいてしまった私は、絶句した。
「ククリ!」
梅姫の表情が少しだけ華やぐ。
「良かった、無事だったんだな!」
梅姫に返事をすることができない。梅姫はすぐに私の動揺を察し、「全員半妖だよ」と明言する。
「百鬼夜行が終わって、半妖が産まれてることに気づいて……星明と一緒に探したんだ。これで全員だと思う」
梅姫は、自分と同じ境遇の赤子を放置できなかったようだ。同胞が増えたのに喜んでいないのは、赤子たちの宿命を憂いているのか。
「この子、曙の子なんだ」
あやしている一人の赤子を抱き上げて梅姫が泣く。
「私はこの子たちを育てたい。清行は……なんて言うかな」
清行様の写し鏡だったのに、私は何も言えなかった。
「ククリ、百鬼夜行は終わったばかりだ。妖怪が何か言っているならすぐにおれに……」
「無理です!」
私は、これ以上、芦屋家を妖怪に関わらせたくなかった。