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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2016年
107/201

4月19日  ヤクモ

 百鬼夜行が終わり、人々が集った町役場。一階は遺体安置所になり、二階は治療室になって、未だに広がっていく地獄を三階から見下ろして溜息を吐く。

 振り向いて、あっちのぬし様の後ろ姿を眺めるた。ぬし様は、この場所に唯一寝かせられた陰陽師おんみょうじの傍から一向に離れようとしなかった。


 そこで寝かせられている陰陽師は、百鬼夜行を終わらせた陰陽師。十一年しか生きていない小さな小さな陰陽師。この町役場に集った者の中で、唯一死にかけている陰陽師。


「……お願い」


 呟いたぬし様は、少年陰陽師の生還を願っていた。家族でもない。知り合いでもない。偉大なる陰陽師の血の繋がらない甥の為に命を懸けて願っていた。

 ぬし様の式神しきがみのあっちも、少年陰陽師が生き残ることを願っていた。願わずにはいられなかった。



『──生きて』



 そう言ったのは、間違いなくこの少年陰陽師だから。少年陰陽師の両親の安否は未だに確認されておらず、少年陰陽師の従兄が亡くなったという報告が先ほど入り、少年陰陽師の従妹は自身の兄の遺体と共に助けを待っている。少年陰陽師の傍には、あっちのぬし様しかいなかった。


「ぬし様」


 声をかける。少年陰陽師が亡くなったとしても、それはぬし様のせいではない。それでもぬし様は自分のせいだと思うだろう。そんなことはないと言いたいから。


「ぬし様」


 ぬし様の体をできるだけ強く揺さぶった。ぬし様はあっちの存在に気づいていて、それでも少年陰陽師の傍から離れようとしなかった。


「……ぬし様、休憩しておくんなんし」


 少年陰陽師の傍にいることも大切だ。けれど、少年陰陽師は他人だから──あっちはぬし様の体の方を案じてしまう。


「無理だよ」


 答えたぬし様の声は、悲しいくらいに掠れていた。心が枯れているのだと思うくらいに寂しかった。


「俺は何もできなかった。この子の傍にいることしかできないんだ」


 そんなことを言わないでほしかった。ぬし様が何もできなかったなんて、そんなことはない。ぬし様だって傷つきながらも戦っていた。百鬼夜行を戦って生き抜いた人間の中に何もできなかった人間なんて一人もいないから、そんなことを言わないでほしかった。


「お願い、結希ゆうき様。結希様が生きていてくれないと、俺たちの世界は……灰色のままだよ」


 ぬし様の綺麗な紫苑色の瞳でさえ、今はどんな色をしているのかわからなかった。少年陰陽師を──ゆうさんを亡くしたら、幸せな未来はきっともう二度と描けないと本気で思った。

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