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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2016年
105/201

4月19日  百妖椿

 泣きじゃくることしかできなかった。そんなアタシの手を愛姉あいねぇが引っ張ってくれているから、泣いているだけで良かった。

 けど、愛姉が保育士さんを突き飛ばして月夜つきよ幸茶羽ささはを抱っこしたから、アタシは自分の足で走らないといけなかった。


「あいねぇ、しろねぇは……?」


「いない」


「なんで……?」


「戦ってるから」


「はるねぇは……?」


「お姉ちゃんたちが探してくれてる」


「…………お姉ちゃんたちは、だいじょうぶなの?」


「大丈夫。大丈夫だから。……三人のことは、ウチが、守るから」


 アタシは愛姉に守られていた。アタシは心春こはるの姉で、月夜の姉で、幸茶羽の姉なのに。三人のことを守らなくちゃいけなかったのに、全部愛姉だけに背負わせてしまった。


 頭の中に浮かんでくるのは、心春の顔。


 アタシは心春のお姉ちゃんなのに、アタシは心春のことを守れなかった。心春に一番近いところにいたのに、今日は用があるから先に帰ってなんて言ってしまって心春の手を離した。


「……う、あ……」


 また涙が溢れてくる。お姉ちゃん失格だ。アタシだけが最低のお姉ちゃんだ。

 月夜でさえ幸茶羽を守ろうとしているのに、アタシだけが妹を守れなかった。お姉ちゃんたちに守られることに慣れていて、お姉ちゃんになれなかった。


 最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ最低だ。


 また泣いてしまったアタシのことを愛姉が優しく抱き締める。違うんだ愛姉、遅かったけどアタシも強くなるから、心春が助かったら心春のことを守るから、アタシなんか守らなくてもいいから。


「愛姉、アタシ……どうすればいい?」


 罰を受けたくて聞いた。こんな情けないアタシだから愛姉はアタシのことも守ってくれるのだろうと思った。


「信じる」


 愛姉はそれだけしか言わない。


「お姉ちゃんが勝ってくれるのを、信じる。だってお姉ちゃんはウチのお姉ちゃんだもん。負けるなんて絶対にあり得ない」


 泣きそうな顔でそんなことしか言ってくれない。外に出て一緒に戦おう、外に出て戦えなんて言葉は絶対に言ってくれない。


「行こう、あの人たちが追いかけてくるかもだし」


 立ち上がった愛姉は、また月夜と幸茶羽を抱っこしようとした。けど、愛姉の身長はそんなに大きくない。アタシと変わらないから、手を伸ばしてアタシが幸茶羽を抱っこする。


椿つばき


「アタシも一緒に守る」


 だってアタシは、月夜と幸茶羽のお姉ちゃんでもあるから。


 けどこれは、望んでいる罰じゃない。

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