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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2016年
104/201

4月19日  百妖愛果

 妖怪が町に溢れた瞬間、頭に浮かんだのは大切なお姉ちゃんたちの笑顔だった。

 ウチも戦わなきゃ。でもどうやって? ウチは豆狸の半妖はんようで、その姿にはなれるけれど、力を使うことはできない。自分の役立たずっぷりが嫌になった今この瞬間にどうして──


『町民は皆、陽陰おういん学園生徒会と《十八名家じゅうはちめいか》の指示に従って地下に避難せよっ! これは……コード・ゼロ! コード・ゼロ!』


 ──どうして、百鬼夜行が。


愛姉あいねぇ!」


 通学路を一人で歩いていたウチは、妹の声を聞いて安心した。振り向いて椿つばきの姿を見て、すぐに思う。


心春こはるは?!」


 小学四年生の椿と、小学二年生の心春。そして保育園に預けられている月夜つきよ幸茶羽ささはがウチの妹だ。


「まだ会ってない! 探してるけどいないんだ!」


 不安そうな表情をしている椿を放って戦場に出ることはできなかった。ウチは椿の手を引いて、心春を探す。

 同じ通学路のはずなのに、どこにもいなくて。下駄箱に上履きしかないことを確認して、家に帰ってもいないことを確認して、途方に暮れる。


「愛姉、なんか電話来てるよ……」


 椿に言われて見た固定電話には、確かに留守電が入っていた。操作方法はわからないけど、書いてある通りに操作して録音を聞く。


 心春を誘拐した。そんな内容だった。


 ウチも椿も動けなくて、椿の方を向く前にガラス戸の向こう側を見てしまって、手遅れなほどに妖怪が溢れていることに気づく。

 心春を探すことも、お姉ちゃんたちを探すことも、今のウチの力ではできない。できるのはただ、ウチの後ろで泣き出した椿を守ることだけ。


「行くよ、椿」


「あっ、愛姉! 心春は……?!」


「お姉ちゃんたちが探してくれる」


「でもお姉ちゃんたちこのこと知らないだろ?!」


「しいねぇなら絶対に気づく」


「なんでそう言い切れるんだよ!」


「ウチはお姉ちゃんたちを信じてる。だから椿もウチを信じて」


「…………わ、わかった」


 椿の手を引いて走った。みんな地下に避難してる。だからウチも、まだ半妖姿にさえなれない椿を連れてそこに逃げる。


 保育園に行ってる月夜と幸茶羽ならばそこにいるはずだ。心春のことは守れなかったけれど、椿と月夜と幸茶羽だけは絶対に守る。

 半妖としてのウチじゃなくて、三人のお姉ちゃんとして、お姉ちゃんたちの代わりに守ってみせる。そうやってずっと守られてきた。そうやってずっと、愛されていた。それがただ続いていく。今度はウチの番なんだと思う。


「月夜ッ! 幸茶羽ッ!」


 叫んで、走った。

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