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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2016年
103/201

4月19日  百妖和夏

 おびただしい数の妖怪が町役場に群がっている。町役場は町の中心。町の要。あそこが陥落したら勝ち目はない。私たちの負けだ。

 シロねぇはオフィス街、いおねぇとまりねぇは大学、かなねぇから朱亜姉しゅあねぇは高校にいるはずで。それは全部町の端に位置していて。


 町役場に最も近い中学校にいた私だけが、多分そのことに気づいていた。


「…………行かなきゃ」


 言葉に出して決意を固める。守らなきゃ。お姉ちゃんたちと妹たちが愛して、大切な幼馴染みのレイが暮らすこの町を守れるのは私だけだ。


 屋根を蹴って走り出す。襲いかかってくる妖怪はすべて伸ばした鉤爪で切り裂いた。

 私は猫又ねこまた半妖はんようだから、駆け抜けながら倒すことは大の得意で。私が私で本当に良かったと心から思う。


 けれど、私は戦えるお姉ちゃんたちの中で最年少だった。二個下のあいちゃんたちは半妖になれない。私の年齢が半妖になれるギリギリの年齢で良かったと思うけど、だから、未熟だと痛感する。


 力で相手を押しているような状況だった。経験がない分、血の記憶でそれを補っているような状況だった。


 町役場がある場所が見えてくる。そこを覆うように、壁になるように、妖怪がいた。


「──ッ」


 あの数、全部? 心が折れそうになる。それでも戦わなくちゃいけない。それが私たち半妖だ。


 そんな私が来ているから、妖怪たちもこっちを見る。


 少しでも町役場に群がる妖怪の意識をこっちに向けさせることができたら、誰かの役に立つのかな。

 勝つことを諦めたわけではないけれど、そんな考えが脳裏を過ぎって──



「──」



 ──攻撃を、受けた。


 何が起きたのか一瞬わからなくて、自分の胴体が視界に入る。血飛沫を散らしながら落ちていくそれに首はなく、斬られたのだと、理解した。


「…………ごめんね」


 レイに謝る。くるくると回りながら落ちていく。死ぬのだと自覚した。首が斬られたのにずっと色んなことを考えていて、自分がどれほど妖怪の血が濃かったのかも自覚する。


 地面が見えた。


 ぶつかって、色んなものが飛び散っても、私はごめんねと謝っていた。ぼろぼろと色んなものが零れていく。掻き集めて、治すことは、誰にもできない。


 ごめんね。ごめんね。ごめんなさい。


 こんな目に遭っても私はまだ生きていた。だからずっと思ってしまう。ごめんねって。愛してるって。そう思ってしまう相手はレイだった。


 お姉ちゃんたちがここにいなくて良かった。お姉ちゃんたちは私を見て後悔するのかな。……それは嫌だな。

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