4月19日 百妖朱亜
「熾夏! 避難誘導は?! まだ終わんないの?!」
「終わってな──ッ!」
熾夏の声が不自然に途切れる。熾夏の無事を確認したくても、そんな余裕は私たちの誰にもなかった。
クソ、クソ、最悪だ。ここで死ぬのか? 最悪なシナリオが脳裏を過ぎる。そんなの絶対に嫌なのに。
「熾夏ッ! しっかりしなさい!」
かな姉の叱咤が聞こえてきた。熾夏は殺られていなかったけれど、その場に突っ立ったまま動かなかった。
「何が視えたの?!」
それ以外考えられなくて尋ねる。熾夏が動揺するということは、この世界が終わったも同然の反応で──気が気ではない。早く楽にしてほしい。
「みんな! 春ちゃんが誘拐された!」
けれど、私たちは楽にはならなかった。
「は?! 何?! どういうこと?!」
「そのまんま! 妖怪じゃなくて人に!」
「どこにいるんですか!」
「あっち──けど」
すぐに鈴歌がこっちに来て、私たちを心春の下へ──大好きな妹の下へと運ぼうとする。そんな私たちの進む道を阻んだのは、この瞬間も妖怪だった。
「あぁもう! 退けよ!」
吠えて吠えて妖怪の体を斬り続ける。
あっちに行きたい。心春のことを早く助けて抱き締めてあげたい。けれど妖怪が邪魔をする。妖怪は百鬼夜行発生直後よりも確実に増えており、私たちだけでは手に負えなくなってきたほどに──数で負けていた。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
涙先輩が九字を切る。涙先輩の式神のエビスも空を舞う。
私たちの誰も欠けなかったけれど、陰陽師の数も式神の数も減っていることに気づいていた。誰かが今この瞬間に欠けてもおかしくないくらい、私たちが追い詰められていることに、私たち自身が気づいていた。
「熾夏ァッ──!」
叫ぶ。頼りになるのは熾夏だけだった。私たちの誰よりも強くて優しい、大好きな三つ子の姉。熾夏がいれば私たちはまだ負けてない。そう思えるくらいに熾夏は私たちの希望の星だ。
「かな姉! 道を開いてッ!」
水の槍が水の砲弾に姿を変える。一発撃てばしばらくは動けなくなるだろう。そんなかな姉を守るのは私だ。言われなくてもすぐに気づく。私は熾夏の三つ子の妹だから。
そんな私たちを運ぶのは、三つ子の姉の鈴歌だった。熾夏にはすべてが視えてる。かな姉だけでなくそんな二人を守るのも私の役目だった。
刀を握れなくなったらこの体を盾にしよう。轆轤首の私には、それくらいしか家族を守る術がなかった。それくらいしか脳がない、一番の役立たずだった。