表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2016年
102/201

4月19日  百妖朱亜

熾夏しいか! 避難誘導は?! まだ終わんないの?!」


「終わってな──ッ!」


 熾夏の声が不自然に途切れる。熾夏の無事を確認したくても、そんな余裕は私たちの誰にもなかった。

 クソ、クソ、最悪だ。ここで死ぬのか? 最悪なシナリオが脳裏を過ぎる。そんなの絶対に嫌なのに。


「熾夏ッ! しっかりしなさい!」


 かなねぇの叱咤が聞こえてきた。熾夏は殺られていなかったけれど、その場に突っ立ったまま動かなかった。


「何が視えたの?!」


 それ以外考えられなくて尋ねる。熾夏が動揺するということは、この世界が終わったも同然の反応で──気が気ではない。早く楽にしてほしい。



「みんな! はるちゃんが誘拐された!」



 けれど、私たちは楽にはならなかった。


「は?! 何?! どういうこと?!」


「そのまんま! 妖怪じゃなくて人に!」


「どこにいるんですか!」


「あっち──けど」


 すぐに鈴歌れいかがこっちに来て、私たちを心春こはるの下へ──大好きな妹の下へと運ぼうとする。そんな私たちの進む道を阻んだのは、この瞬間も妖怪だった。


「あぁもう! 退けよ!」


 吠えて吠えて妖怪の体を斬り続ける。

 あっちに行きたい。心春のことを早く助けて抱き締めてあげたい。けれど妖怪が邪魔をする。妖怪は百鬼夜行発生直後よりも確実に増えており、私たちだけでは手に負えなくなってきたほどに──数で負けていた。


りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん!」


 るい先輩が九字くじを切る。涙先輩の式神しきがみのエビスも空を舞う。

 私たちの誰も欠けなかったけれど、陰陽師おんみょうじの数も式神の数も減っていることに気づいていた。誰かが今この瞬間に欠けてもおかしくないくらい、私たちが追い詰められていることに、私たち自身が気づいていた。


「熾夏ァッ──!」


 叫ぶ。頼りになるのは熾夏だけだった。私たちの誰よりも強くて優しい、大好きな三つ子の姉。熾夏がいれば私たちはまだ負けてない。そう思えるくらいに熾夏は私たちの希望の星だ。


「かな姉! 道を開いてッ!」


 水の槍が水の砲弾に姿を変える。一発撃てばしばらくは動けなくなるだろう。そんなかな姉を守るのは私だ。言われなくてもすぐに気づく。私は熾夏の三つ子の妹だから。

 そんな私たちを運ぶのは、三つ子の姉の鈴歌だった。熾夏にはすべてが視えてる。かな姉だけでなくそんな二人を守るのも私の役目だった。


 刀を握れなくなったらこの体を盾にしよう。轆轤首ろくろくびの私には、それくらいしか家族を守る術がなかった。それくらいしか脳がない、一番の役立たずだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ