4月19日 百妖鈴歌
ボクは飛ぶ。それしか脳がない半妖だから、戦って傷つく姉妹たちを──危険な場所に運ぶことしかできない自分を殺したかった。
ごめん。ごめんね。ごめんなさい。
謝っても許されることではない。姉妹たちや涙先輩が笑って許してくれても、傷ついた四人の姿を見たボクがボクを許さない。
許せないなら、地獄の底まで落ちるしかない。そんなボクを引き止めるように、陽陰学園に残してきた桐也先輩の声がした。
引き止める言葉を言っていたわけではない。桐也先輩ならば、桐也先輩だから、ボクのことを引き止めてくれる。半妖でも陰陽師でもないあの人ならば、ボク以上に自分のことを許せないだろうから──そう思って今日もまた桐也先輩に救われる。
桐也先輩が自分のことを許せないと泣いたら、ボクは「自分を責めないで」って言うから。
だから、ボクは、まだ飛べる。
ボクが最初に死ぬことだけが、最も許されないことだから。
避難する人たちの列が視界に入った。そんな彼らを守るように、四人がボクの上から飛び出して戦う。そんな四人が眩しかった。また、自分が情けないと思う。
このままだったら後悔する。きっと、死んでも死に切れない。
上空にいる妖怪がいないわけではなかった。ボクと同じ一反木綿が近づいてくる。
ボクを守るようにかな姉が動こうとしたけれど、それだけは駄目だ。かな姉、守るべき誰かを見失っちゃ駄目だよ。守らなきゃいけないのはボクじゃないよ。
そう伝えたくて突進した。絞め殺してやる。ボクだって半分妖怪だ。戦える。
ボクは四人の足だから、なるべく遠くに行かないようにした。上空にいるから、そんな四人よりも周りの状況がよく見えた。
陰陽師と式神たちが遠くの方で戦っている。ボクたちの手が届かない場所でも誰かが命をかけて戦っている。その事実がボクの身を震わせる。ボクはまだ、戦える。
「──馳せ参じたまえ、エビス!」
涙先輩が呼んだのは、涙先輩の式神だった。
男子小学生のような見た目をしたエビスでさえ、この地獄で戦う。殺しても、殺しても、終わりが見えないこの場所で──ボクたちはいつまで戦えばいいのだろう。
「町民の避難は未了です! 町民の死守を!」
あぁそうか。この人たちの避難が終わったらこの戦いは一段落するのか。
なんの為に戦っているのかわからなくなったけれど、それまではまだ死ねない。誰のことも死なせない。
傷ついた誰かがいたら背中に乗せて助けよう。それがボクの、生まれた意味だ。