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百鬼戦乱舞 ―語草―  作者: 朝日菜
2016年
100/201

4月19日  百妖鈴歌

 ボクは飛ぶ。それしか脳がない半妖はんようだから、戦って傷つく姉妹たちを──危険な場所に運ぶことしかできない自分を殺したかった。


 ごめん。ごめんね。ごめんなさい。


 謝っても許されることではない。姉妹たちやるい先輩が笑って許してくれても、傷ついた四人の姿を見たボクがボクを許さない。


 許せないなら、地獄の底まで落ちるしかない。そんなボクを引き止めるように、陽陰おういん学園に残してきた桐也きりや先輩の声がした。

 引き止める言葉を言っていたわけではない。桐也先輩ならば、桐也先輩だから、ボクのことを引き止めてくれる。半妖でも陰陽師おんみょうじでもないあの人ならば、ボク以上に自分のことを許せないだろうから──そう思って今日もまた桐也先輩に救われる。


 桐也先輩が自分のことを許せないと泣いたら、ボクは「自分を責めないで」って言うから。


 だから、ボクは、まだ飛べる。


 ボクが最初に死ぬことだけが、最も許されないことだから。


 避難する人たちの列が視界に入った。そんな彼らを守るように、四人がボクの上から飛び出して戦う。そんな四人が眩しかった。また、自分が情けないと思う。

 このままだったら後悔する。きっと、死んでも死に切れない。


 上空にいる妖怪がいないわけではなかった。ボクと同じ一反木綿いったんもめんが近づいてくる。

 ボクを守るようにかなねぇが動こうとしたけれど、それだけは駄目だ。かな姉、守るべき誰かを見失っちゃ駄目だよ。守らなきゃいけないのはボクじゃないよ。


 そう伝えたくて突進した。絞め殺してやる。ボクだって半分妖怪だ。戦える。


 ボクは四人の足だから、なるべく遠くに行かないようにした。上空にいるから、そんな四人よりも周りの状況がよく見えた。

 陰陽師と式神しきがみたちが遠くの方で戦っている。ボクたちの手が届かない場所でも誰かが命をかけて戦っている。その事実がボクの身を震わせる。ボクはまだ、戦える。



「──馳せ参じたまえ、エビス!」



 涙先輩が呼んだのは、涙先輩の式神だった。

 男子小学生のような見た目をしたエビスでさえ、この地獄で戦う。殺しても、殺しても、終わりが見えないこの場所で──ボクたちはいつまで戦えばいいのだろう。


「町民の避難は未了です! 町民の死守を!」


 あぁそうか。この人たちの避難が終わったらこの戦いは一段落するのか。


 なんの為に戦っているのかわからなくなったけれど、それまではまだ死ねない。誰のことも死なせない。

 傷ついた誰かがいたら背中に乗せて助けよう。それがボクの、生まれた意味だ。

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