10月31日 オウリュウ
遠い遠い地で、誰よりも偉大な陰陽師が死んだ。風が教えてくれた事実はそれだけじゃなくて、オーに戦争の幕開けを告げてくる。
偉大なる陰陽師が食い止めていたその計画は、いつの間にかこの国全土に知れ渡っていた。そして、彼の死でたがが外れた。
「……殺されてるの?」
風が吹く。からからと、赤い紅葉が地面を撫でた。
「……そうなんだ」
誰が悪いのかわからなかった。悪意と善意が混在したのがこの世界だった。
「オウリュウ、精霊となんの話をしてるんだ?」
「……宗隆」
オーの主の宗隆は、間宮家から出てきて腕を組む。楽しそうに笑みを浮かべているのはいつものことで、オーの話を聞きたくて聞きたくて堪らなさそうに近づいてきた。
「……〝あの人〟が死んだって」
「〝あの人〟が?」
オーたちと交流があったわけじゃない。けれどやっぱり、〝あの人〟の死は陰陽師だったら衝撃的だったようで。宗隆は眉間に皺を寄せ、真っ赤な空をじっと見上げた。
「そうか」
「……あの計画も、始まってる」
「あの計画?」
「……星明から何も聞いてないの?」
「あぁ。怒られるだろうか?」
「……清行の方が怒りそう」
「やめろよ。清行は本当に恐ろしいんだ」
「……宗隆がみんなの気持ちを考えないから。あの計画は、清行にとって大きな意味があるのに」
この町の陰陽師は、宗隆と、星明と、清行だけ。間宮家と、結城家と、芦屋家だけ。
「そうなのか? それで、その計画とは?」
「……妖怪を、みーんなみーんな殺しちゃう計画」
言えば、宗隆は息を止めた。
「……国の北と南から、大きな結界を張って妖怪を追い詰める。真ん中の方へと、真ん中の方へとって。それで妖怪を全滅させるの」
「それは、あの人が死んだからか?」
「……計画自体は前からあった。でも、死んじゃったからみんな怯えた」
「清行はそれを良しとしているのか?」
「……してる。聞きたくないって」
「おれは聞いてみたいけどなぁ」
「……どうして?」
「話ができるなら、友になれるかもしれないだろ?」
もう、宗隆の言葉で驚くようなオーじゃない。
「共に同じ娯楽を楽しめるかもしれない。共に、生きることができるかもしれない」
「……うん。宗隆は、ずっと宗隆だね」
オーはそれ以上何かを言うことができなかった。けれど、オーは宗隆の式神だ。宗隆の気持ちは、誰よりもわかっているつもりだった。そう、思っていた。