表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりの自殺未来  作者: 広瀬翔之介
第7章
31/33

京浜東北線で宇宙の果てまで

 私は夢を見ていた。

 夢の中で、京浜東北線の電車の椅子に座っている。

 なぜその電車に乗っているのか、

 どこへ行こうとしているのかは分からない。

 隣を見ると、成君が座っていた。

 私達の他に乗客は誰もいない。


 窓の外には暗闇が広がっている。

 夜の街とか、トンネルの中とか、そういう場所ではない。

 窓の外には、ただただ何もないのだ。

 この電車は一体どこを走っているのだろう。

 見えるのは黒色だけだ。

 もしかしたら樹海の中なのかもしれない。

 あるいは宇宙のどこかに浮かんでいるのかもしれない。

 京浜東北線で宇宙の果てまで。


 私達はずっと黙っていて、聞こえるのは電車の走る音だけだ。

 でも、それは嫌な沈黙ではなかった。

 むしろ心地良かった。

 私は車輪がレールの上で回る音をじっと聞いている。

 どれくらい時間が経ったのか分からないけれど、

 成君がようやく口を開いた。


「俺が自殺しようか?」


 成君はそう言った。


「ううん、もうそんなことはやめよう」


 私はそう答えた。


「そっか」


 成君は小さく微笑んだ。


「それじゃあ、ここでサヨナラだな」


 なんとなく、そう言われる気はしていた。

 やがて電車が減速し、ゆっくりと止まる。

 アナウンスは何もなかった。

 ここがどこなのかは分からない。

 車内の扉が一斉に開き、成君は立ち上がった。


「じゃあな」


「お別れのキスでもしてみる?」


 私は悪戯っぽく笑った。


「よく言うよ」


 成君は困ったように笑い、出口の前に立つ。

 その先にはやはり何もなかった。

 ただ暗いだけだ。

 成君は私の方へ振り返る。


「またな、渚」


 そう言って、暗闇の中へ飛び込んだ。

 扉が閉まり、電車が再び動き出す。

 私はそれをじっと見ていることしかできなかった。

 ふと思った。

 私は今、どんな顔をしているんだろう。

 窓に映る自分の顔を確かめようとした。



        ◇◇◇◇



 そこで目が覚めた。


 樹海には朝が訪れていた。


 体のあちこちが痛み、やなはるは今自分がどこにいるのか分からなくなっていた。起き上がろうとして、地面に手を突いたところでようやく思い出す。



 そうだ、まだ樹海にいるんだった。

 なんだか頭がぼうっとする。もしかしたら風邪をひいたのかもしれない。さっきから寒気がする。今までの出来事が全て夢のようにも思える。


 今までとは、いつからのことだろうか。この旅のことだろうか。成君と出会ってからだろうか。渓人と出会ってからだろうか。それとも、今まで生きてきた人生の全てだろうか。



 やなはるはとりあえず持ってきていたパンを食べ、水をごくごくと飲んだ。そして、樹海の清浄な空気でゆっくりと深呼吸をした。


 心身ともに少しスッキリしたところで立ち上がり、方位磁針で南の方角を確認した。


 昨日何時間も彷徨ったことを考えると目の前が真っ暗になる。ここで野垂れ死ぬという最悪の結末が頭をよぎる。


 だが、気をしっかり持とうとした。



 必ずここから生きて出てやる。



 やなはるは自分が進むべき方向をしっかりと見据える。


 リュックサックを背負い、最後に一度だけ後ろを振り向いた。


「またね、成君」


 そう言葉に出してから、外の世界に向かって歩き出した。

残り2話

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ